トヨタが医療機器を事業化――。そんなワクワクするニュースが飛び込んできたのは4月のこと。藤田保健衛生大学と共同開発した下肢麻痺患者用リハビリ支援ロボット「ウェルウォーク」が、満を持してお披露目されたのです(関連記事)。

 なぜ、満を持してなのか。トヨタ自動車と藤田保健衛生大学の挑戦は、足掛け10年の一大プロジェクトだったからです。プロジェクトの屋台骨を支えたのは、藤田保健衛生大学 統括副学長で医学部 リハビリテーション医学Ⅰ講座 教授の才藤栄一氏。いてもたってもいられなくなった筆者は、早速、その経緯や今後の展望などを聞きに才藤氏のもとに向かいました(関連記事:トヨタと開発した医療ロボで10年先の未来を変える)。

 才藤氏は、「こういったプロジェクトを成功させることはなかなか難しい」と振り返ります。なぜなら、(トヨタのような)財力のある大企業ほど、そんな事業からは手を引くべきだと周囲から抑制されてしまうからだといいます。まさに、「トヨタの敵はトヨタにあり」(才藤氏)というわけです。実際、今回も完成までに10年の年月を費やしたことで「時間がかかりすぎ」「すぐに結果を出せ」という声が上がっていたそうです。ウェルウォークが事業化まで漕ぎつけたのは、そんな逆風の中、粘り勝ちをおさめた賜物ともいえるでしょう。

 もっとも、10年の年月がかかったのは、医療機器の開発がトヨタにとって未開の地だったことも多分に影響しています。自動車開発では第一線を走る同社のエンジニアは、必ずしも医療やリハビリに明るいわけではありませんでした。しかし才藤氏は、「これまでの共同開発でかなり土地勘をつかんでもらった」と、今後の開発スピードの加速を予見します。

 実は、トヨタ自動車と藤田保健衛生大学は、4つの領域の介護支援ロボットを同時に開発しています。すなわち、(1)歩行練習アシスト、(2)自動歩行アシスト、(3)バランス練習アシスト、(4)移乗ケアアシスト、の4領域。前出のウェルウォークは、(1)の歩行練習アシストのロボットです。

 今後、残り3つの領域のロボットを始めとして、トヨタ自動車発の医療・介護領域の製品は「どんどん出てくるだろう」と才藤氏は期待しています。それは、トヨタのエンジニアの粘り強い確かな力量を見込んでのことです。

 新しいことを始めるとき、必ずしも追い風が吹いているとは限りません。それはトヨタほどの大きな会社でも…。才藤氏の言葉に習うなら、組織が大きくなるほど後ろ指を指されるのかもしれません。それでも、“敵”に惑わされずに一途に目の前のものづくりを追求する――。そんなエンジニアの信条が、ウェルウォークの誕生で垣間見えた気がしました。