大塚製薬と米Proteus Digital Health社は、医薬品にセンサーを組み合わせた、いわゆるスマートピルやデジタルメディシンと称される製品について、米食品医薬品局(FDA)から審査完了報告通知(CRL)を受理したことを、ゴールデンウイーク前に発表しました(日経デジタルヘルスの関連記事)

 この製品は、成人の統合失調症、双極性I型障害の躁病および混合型症状の急性期、および成人の大うつ病性障害の補助療法の適応で米国で既に使われている「エビリファイ」(アリピプラゾール)に、Proteus社の極小センサーとパッチ型シグナル検出器を組み合わせた製品です。服薬すると、センサーが発した信号を体に貼り付けた検出器が検出して、患者の服薬状況を正確に記録します。その情報を、医療従事者や介護者がスマートフォンやタブレット端末などを利用して確認することで、適切な治療に結び付けられるというわけです。

 2015年9月にはFDAが新薬としての承認申請を受理したことが発表されていましたが、結局、FDAは現時点での承認は見送り、追加のデータを要求しました。

 エビリファイはもちろん既に米国で承認されており、Proteus社のセンサーとシグナル検出器も、服薬測定ツールとして510kの認証を取得していました。このため、両社は臨床試験は不要と判断して承認申請したわけですが、FDAはデータが不十分と判断したようです。

 大塚製薬が発表した日本語のリリースは、FDAが実際に使われる条件下での追加データ等を求めていて、今後、両社は「FDAの要求に応えるべく協議してまいります」と淡々と述べているだけですが、英語のリリースには米国法人の上級副社長兼最高戦略責任者の「FDAが現時点で承認しないと決定したのは大変残念」というコメントが記されており、今回のFDAの決定が期待外れだったことを隠しません。

 ただ、承認取得に臨床試験が必要かどうかは製薬企業のライフサイクルマネジメント戦略に関わることでしょうからここでは議論しませんが、この新しいコンセプトの製品が、患者の服薬順守や治療成績の向上にどの程度寄与するのかは、データとして示してほしいと率直に思います。デジタル技術を組み合わせることにある程度のコストがかかるわけですから、費用対効果評価の必要性が言われる中で、それによりどのような便益があるのかをきちんと示していくべきだと思いますし、それがこの新しい技術の普及にもつながるのだと思います。いずれにせよ、この新しいコンセプトの製品の実用化に向けて、両社の取り組みには今後も期待したいところです。

本コラムは、バイオテクノロジーの研究者やバイオ産業の関係者に最新の専門情報を届けるメールマガジン「日経バイオテクONLINEメール」に掲載された文章を再編集したものです。日経バイオテクONLINEメールの新規登録などはこちら