昨今、大学での基礎研究を元に、医学部・工学部などによる「医工連携」をテーマとしたシンポジウムなどが盛んに開催されている。大学発の基礎研究が実際の製品化に至るまでにはどのような課題があるのか、このたび開催された「第14回千葉大学医工学シンポジウム」での事例から、医療機器への「製品化の壁」とその対応策を探る。

千葉大学医工学シンポジウムでの課題から

2016年11月15日に開催された第14回千葉大学医工学シンポジウム
2016年11月15日に開催された第14回千葉大学医工学シンポジウム
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 2016年11月15日に開催された第14回千葉大学医工学シンポジウムでは、表題として「医工連携の進め方 ~成果の円滑な現場導入を図るための医看工連携のあり方~」が掲げられた。このシンポジウムの歴史は長く、2003年に設立された「千葉大学フロンティア医工学センター」が主催している。「医工連携」というタームが使われ出したのは、まだ10年足らずなので、それ以前から活動していたことになる。

 千葉大学では、医学部と工学部が主体となり、研究のシーズからプロジェクト制への移行を目指して、研究予算の獲得や企業との共同研究も含めた製品化のための組織体制が組まれている。シンポジウムの主目的は、各プロジェクト間の情報共有、共通課題の認識と対応策などとなっている。

 今回の中心テーマとなったのは、「医工連携研究の倫理的問題をどのようにクリアするか」というパネルディスカッションでの問題提起だった。端的にいうなら、病院と医学部・工学部間での連携による新しい医療機器の効果・効能を示すための試験を行う際、「人体に対して実験を行って良いか?」という点。この場合、一般的には、大学や研究機関の倫理委員会の許可が必要だ。しかも、医学部と工学部それに大学としての複数レベルの壁がある。

 その上で、それぞれの内容たるや治験時に実施される「IRB(Institutional Review Board):治験審査委員会」に近い内容なのだ。倫理委員会は、医療機器としての認証・承認番号が付与された、安全性の高い機器によってのみ治験を許可することが一般的で、実験レベルでの装置は極めて冷ややかな目で見られる。実験機器では、医療機器でいう各種安全性試験を実施していないために生じる問題があるからだ。

 一例を示すと、電気的安全性試験の実施には通常数100万円レベルの費用が発生する。これだけでも一研究室の予算からは到底、捻出できる金額ではない。

 大学の工学部などで医療機器を開発する関係者の話を聞くと、夢を語る壮大な構想の基礎研究品目がある。しかし、その次に待ち受ける「薬機法突破」も含め、医療機器としての製品化を実現し、しかも世の中で使用されるようになる実例はごくわずかというのが現実だ。

 大学、研究機関などでは、医療機器の基礎研究に関わる製品化のための基本要件が理解されていないケースが多い。医療機器メーカーの立場としては「薬機法を突破する」ことが一つの大きな壁という共通認識はあるが、大学や研究者として立場が変わると、異なった次元の壁も存在していることが理解できた。