新たな規格づくりが必要な時代へ

 下図は、本講演の中核となるスライドである。IoMTの基本的な機能と考えればよいだろうか。これからのインターネット社会と医療がどう関わるのか、その4つの可能性について説明されている。

IoMTのケイパビリティ(提供:猪俣氏)
IoMTのケイパビリティ(提供:猪俣氏)
[画像のクリックで拡大表示]

 キーワードは「モニタリング」「制御」「最適化」「自立性」からなり、基本機能としてのステップが順序だてて立項されている。ここでいうモニタリングは生体情報のみならず、環境情報や機器の運用状況などの幅広いパラメータを含む。ここで得られる、いわゆるビッグデータは、解析・評価を経て最適化される。

 やがて、これがニーズにマッチした改良につながり、ときにはパーソナライズされていく。それだけでなく、機器の自己診断とともに稼働状況把握も可能となり、故障予知、さらには自動メンテナンスも可能となる。さらに見据えられているのが、遠隔地での診療・治療への展望だ。

 猪俣氏らが実際に手がけている取り組みとして、米Apple社のオープンソースフレームワーク「ResearchKit」を活用した臨床研究がある(関連記事)。テーマとして取り上げたのは、日本では2000万人にのぼるといわれる「ドライアイ」。研究開始後の数カ月で、約1万人のデータが取得できたという。これまでの医療機関内での臨床試験では実現不可能だった膨大なデータが一気に取得できたというわけだ。

 従来の臨床研究でのデータ取得との違いは、「フィードバック可能」という点にもある。つまり、データ提供者へのメリットに還元できること。猪俣氏は、最終的には経済的な利益や利便性を追求する必要があるが、新しい情報・価値が得られるようになると説く。

 臨床評価試験に求められる、100%信頼性のある試験方法ではなくても、大量のデータから信頼のおけるデータのみ抽出するようなことも容易になる可能性を秘めている。ただし、課題として品質や製品の管理、製造物の責任の所在、標準化・社会制度の確立などを挙げる。

 これからは、医療機器の消費電力や内部機能、稼働状況、データフォーマットなど付帯する機能の規格づくりも必要な時代になる。IoMTへの展開は、現代の必然的なテーマであり、今後の動向にさらに注目する必要がありそうだ。