インターネットとモノをつなぐ「IoT」の時代が到来している。医療の場や医療機器業界においても、必然的に“インターネットと医療を結ぶ”ことの重要性が意識されるようになってきた。今回のコラムでは、IoTの医療特化版ともいうべき「ネット社会と医療をつなぐ動き」、すなわち“IoMT”(Internet of Medical Things)について追跡してみる。

医療に新システムを導入する障壁

 まずは、40年前の医療機器の無線通信技術導入についての事例から。かつて、有線式の生体情報モニタの時代に、通信情報の信頼性の観点などから、無線(ワイヤレス)方式の導入にはいくつかの障壁が指摘されていた。患者情報の取り違えなどの問題が起こりうるという危惧もあったし、電池の交換が面倒という声もあった。だが、患者IDの同時送信や省電力化などの対策が施され、これらの課題は徐々に解消されていった。

 生体情報モニタの無線利用はこうした道程を経て、今では、無線通信技術の進歩もあり、安定した患者の集中モニタリングも可能となった。医療機関における省力化や利便性に寄与している。

 加えて、現在社会においてはインターネットが普及し、それに伴う相互乗り入れの効果も出てきた。以前のコラム「M2Mが動き出した」で紹介したように、医療機器には通常無線と若干性質の異なる携帯電話通信ユニットが内蔵されはじめ、遠く離れた医療情報などが容易に手に入るようになった。

 さらには、情報漏洩の問題に自由な発想を阻まれながらも、QOL向上のための新しい技術は開発され続けている。やはり、当初の医療機器の無線化導入時と同じように、医療情報をどのように扱うかの問題などが、各種法規制との整合化を模索しつつさまざまな改革が続いている。

「IoMTの衝撃」

 2017年9月7日、医科器械会館(東京・本郷)で、全国のものづくり企業と本郷エリアを中心とする製販企業が連携するマッチングイベントが開催された。ここ数年来、通称「本郷展示会」という定例集会として知られているイベントである。今回は長野県の公益財団法人 長野県テクノ財団主催のミニセミナーが併設され、順天堂大学の眼科医である猪俣武範氏が「IoMTの衝撃」と題して講演した。

講演する猪俣氏(提供:東京都医工連携HUB機構)
講演する猪俣氏(提供:東京都医工連携HUB機構)
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 猪俣氏は、一般社団法人「IoMT学会」の代表理事を務め、医療とITの融合であるIoMTについて、将来構想を探求している。まずは、その取り組みの具体的な内容を交えた講演内容を振り返る。

 猪俣氏は、医療機器と情報の融合は「破壊的イノベーション」、つまりこれまで使用されていたものが、まったく新しい別ものに変わりつつあると話す。これは、ダーウィンやアインシュタインが成し遂げたような、極めて大きな転換期に匹敵する時期にさしかかっていると指摘する。ドイツ政府が主導した製造業の第4次産業革命、いわゆるインダストリー4.0と同様の変革が医療においても進み、相互技術の最適化が進行すると断言する。

 具体的には、医療機器の故障やその予防保全、病院のオペレーション、稼働状況などをIoMTで実現すれば、病院や患者、メーカーの総合的な利益につながる。病院の競争力の強化という観点からしても、一番はじめにいかにこの競争に参入するかが重要であり、いち早く参入・開発して自らの持つビジネスの優位性を確立することが重要だと説く。