医療機器の製造・品質管理のためにはQMS省令の基準に適合する必要性がある。この基準適合性調査(QMS調査)に関し、「QMS 適合性調査における指摘事例及び適合に向けての 考え方について(2017年版)」がPMDAから報告書として発表された。今、医療機器の製造・品質管理の体制は一体どうなっているのか、その現状を探ってみる。

薬機法下でのQMS審査はいかに?

 医療機器の製造販売業として機能するには、QMS省令にある「基準に適合している」ことが必須である。つまり、製造販売業者が医療機器を製造販売するにあたり、遵守しなくてはならない規則(平成16年12月17日 厚生労働省令第169号、平成26年改正)がQMS省令だ。

 この省令は第1~第6章から成るが、第2章の基本的要求事項は国際規格であるISO 13485の“医療機器に対する品質マネジメントシステム”とほぼ等しい。各国国別に独自のルールが存在するため、日本では第3章に日本独自の追加的要求事項をまとめてある。平成26(2014)年の改定を機に、海外のメーカーにとっても日本国内法令に対応しやすいように構成されているのが特徴だ。

 冒頭で紹介した報告書は、このQMS省令改定から約1年が経過した平成27(2015)年11月1日から平成28(2016)年3月31日の5カ月間に、第三者認証機関およびPMDAが実施した日本国内での「QMS適合性調査」の集計結果である。約1年間の分析を経て、平成29(2017)年の4月に取りまとめられたものだ。

 この報告書を見てみると、第1に、かなり指摘が多いという印象を受ける。総指摘件数は995件ある。行政側の観点から見た、ルールから逸脱した内容や改善すべき内容が記されている。

QMS指摘事項の内容から

 調査期間に比して分析期間が長すぎるという感が否めないが、少なくとも、こうした報告書が公表された意義は大きい。その意義をさらに高めるために、さらに内容を見ていこう。

 問題となる指摘事項の多さの要因には、QMS省令の内容が抽象的であることが考えられる。例えば第61条 “データ分析”を見てみよう。

製造販売業者等は、品質管理監督システムが適切かつ実効性のあるものであることを実証するために、 …中略… 適切なデータを明確にし、収集し、分析するための手順を確立し、これを文書化しなければならない。

 実は、この「適切なデータ」が何か?、どう「文書化」するのか?、といったことはメーカーサイドに求められていて、基準なるものが存在しない。

 ここが勘どころとも思われるが、「適切なデータ」というだけで基準の中心となる具体的な項目が提示されていない。つまり、最重点の「適切なデータ項目」を自力で作ることが義務付けられる。言い換えれば、「実効力のある基準を自力で文書化せよ」ということになる。

 かくしてできあがった第61条のための規定書・手順書は、本質的に「適切」かどうかが不明なまま、綿密なチェックを受け、その不備・誤謬が指摘される羽目になる。こうなると、芋づる式に関連文書の不備、記録類の間違いなどが指摘される。データ分析はしているが、手順書がないことや、その記録の誤記、日付の有無、担当者、承認者、文書番号の不備…などなど、指摘事項を挙げればきりがない。

 本来、30万種類もあると言われる医療機器の一つひとつに、その単一基準を作るには無理があるからだ。「適切」かどうかを決めるのは人である以上、合理的な説明ができないと見解の相違も発生する。

 実質的にはメーカー自身でルールを決めさせる他に手がないのも事実だが、行政側から見た“不備”ではあっても、医療機器の安全性・信頼性とはほとんど無関係な事項も多々ある。