体調不良から病気に進行すると、その症状や医療機器などによる検査結果に基づいて担当医師から“病名”が与えられる。病気の発症以前と健康の間には、正常値からやや外れた不安定な状態が存在する。そうしたボーダーラインをターゲットとした生体計測技術は最近の注目テーマの一つだ。

高度なヘルスケアの実現へ

 これまで、生体計測技術の進展については、本コラムの中で度々触れてきた。現時点において、人体の生理的な変化や現象を捉えることで、「活動量」「心拍数」「脈拍」「体重・体脂肪」「血圧」などが不完全とはいえ測定可能な領域に入っている。これらの各個人の数値を、統計的な手法で得られた正常値としての指標と比較して、独自のヘルスケアを行っている人も多くなっている。

 だが、病気と健康の間には不安定な状態が存在し、特定の数値の上昇・下降だけが病気を決めるとも思えない。そこには当然個人差もあるため、人並み以上の血圧値を有していても「高血圧症」とならないケースもある。

 もちろん、血圧だけで健康だ、病気だ、と言い切れないのも事実。上記の測定可能数値だけでなく、これまで測定不能、あるいは難度が高いとされてきた計測技術も、総合的な「健康度」の断定には必要とされてきている。

 例えば、人体から分泌・排出される物質、いわゆるバイオマーカーから得られる数値の把握にも多くの機関が関わっている。それらによる有用なパラメータ計測が実現すれば、より精度の高いレベルでヘルスケアが可能になると推定されているからだ。

 また、個々人のヘルスケアは、全人口の統計的な指標判断からリアルタイム生体情報データのビックデータ解析にシフトし始めている。医療機器や医薬品での診断・治療だけでは、広義のヘルスケアにはならない。新しいヘルスケア機器による計測結果は、個人の運動・食事への提案でもあり、日常生活へのフィードバックによって病気を未然に防ぐ重要なツールとなりうる。将来的には、個人が“健康”であることの証として、また、病院に通う必要がない状態を把握するためにも、ヘルスケア機器による数値判断が可能となる日がくるかもしれない。