前回のコラムでは、時代の趨勢にそってワイヤレス医療機器の法規制が緩和されつつあることを述べた。今回は、米国に見る最新の状況について紹介し、我が国での具体的な電波利用の実情について比較考察したい。

米国では考え方に変化が

 通常の携帯電話機での送受信方式として知られる「周波数ホッピング(FHSS:Frequency Hopping Spread Spectrum)」は、送受信周波数が時々刻々と変化する。その理由は、通信の秘匿性や耐障害性の確保をはじめ、雑音成分の少ない周波数帯選択を自動的に可能にするなどの最新技術が詰め込まれているためだ。BluetoothやWi-Fiなど一部の通信方式でもその技術が利用され、安定した電波通信環境が構築されている。

 医療機器においてもその技術を利用しようと考えるのは、極めて自然の流れである。オランダPhilips社は、米国市場でいち早くその時流にのり、利用帯域としてもISM帯(国際的に多目的用途に割り当てられた周波数帯域)から「WMTS」(Wireless Medical Telemetry Service)への展開を図っている。

 WMTSは1.4GHzを中心とした帯域で、医療・健康分野に特別に割り当てられた1.395G~1.400GHzと1.427G~1.432GHzの2つの狭帯域(5MHz帯)から成る。現代の代表的なISM帯である900MHz帯と2.4GHz帯の中間に位置し、一般的な機器が使用できない独占的な帯域ともいえる。

各周波数帯の比較、著者が作成
各周波数帯の比較、著者が作成
[画像のクリックで拡大表示]

 同社では生体情報モニタリングシステム「IntelliVue」に適用し、“Smart-hopping”という呼称のシステムを展開している。その上で、独自のプロトコルを有していて、両方向通信も可能だ。

 このシステムは、生体情報モニタ関連の患者装着機器とセントラルモニタはもとより、モバイル、スマートフォン、また院内LANなどとの通信が広範囲で行えるシステムでもある。Smart-hoppingという新語には、常に環境をモニタリングしながら、雑音のない周波数へ「飛び移る」方式という意味を包含している。現在の一般的な通信方式から連想された方式と考えられる。

 ここで重要なのは、米国における産官連携、というより国家戦略的な狙いが感じられることだ。どう考えても、機器メーカー側からFCC(Federal Communications Commission、連邦通信委員会)へ要望した結果、許可されたものだろう。そこに、米国の強い意志を感じ取ることができる。今後、WMTSがどういう過程をたどるか未知の面もあるが、我が国への影響も十分に考えられ、目の離せない展開になってきた。