大学発ベンチャーや国家プロジェクトによる医療機器開発は、ハイテク技術を利用した“革新的”機器開発のテーマが多い。しかしながら、真に必要とされる製品は、必ずしも革新性や新規性だけが重要というわけではない。東日本大震災から6年、大型医療機器等を対象としたリスクマネジメントの好例として、転倒防止機構に注力した製品例を紹介したい。目立たない製品であっても、いのち守ることを最優先に考えられた事例がここにある。

真のリスクマネジメントとは何か

 東日本大震災からの6年、人間のいのちを守ることの大切さを再認識させられた時期だったといっていい。特に、人のいのちと真正面から向き合う「医療機器」は、たとえ大地震であっても動作不能に陥ってはならない。いわば“停まってしまった”では言い訳のきかない製品でもある。

 写真1に示したのは、四六時中、稼働し続ける人工透析の輸液供給システムだ。このシステムには、耐震装置が設備されており、強度の地震にも耐えられるようになっている。この耐震装置はメーカー純正ではなく、後から設置されたものである。

写真1●提供:山東第二医院(新潟市)
写真1●提供:山東第二医院(新潟市)
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 実際、これで補強された製品は、東日本大震災の際の強振にも耐え、転倒を免れたことで注目された。人工透析装置や人工呼吸器などは、止まったら最後、何人もの患者のいのちに関わる。装置そのものがいのちを救うための機器であるゆえ、その性能・機能を維持し続けるのはもちろんのこと、いかなる状況下でも稼働し続けるべき宿命を担っている。

 本設備に組み込まれているのは、最新鋭とかハイテクという技術とは無関係。いうなれば、地道に現場に足を運んだことにより得られたアイデアと、臨床現場の生の声から生まれた単純な製品といえる。それゆえに、大企業や医療機器専門メーカーが手の出しにくい分野なのかも知れない。

 逆に言うなら、こういう分野こそ、中小企業やベンチャーの出番なのだ。医療側からすれば必須な製品なのに、誰も参入しようとはしない。なぜなら、採算性が未知、販売台数にも制限があるような機器は、専門メーカーも二の足を踏んでしまうからだ。

 しかし、よく考えてみてほしい。医療機器業界において普遍な思想として力説されている、本来の“リスクマネジメント”は、こういうケースを基本とするのが本質だろう。日常的に言われるQMSとか、リスクマネジメントというのは、こういう事態になって初めて真価が問われる。そのための対応策の好例を、ここに見る思いがする。