「IoT技術は今後どうなるか」。そう問われて明確に説明できる人はどれだけいるだろうか。多くが答えに窮する最大の理由は、IoTの定義が曖昧だからである。実は、その答えのヒントが既に出願された特許に散りばめられている。特許は研究開発段階の有望技術が開示されたものであり、個々の特許を統合的に分析することで技術の今後のトレンドが予測できるからである。特許分析からIoTの未来像を予測した『IoTの未来 2017-2026[特許分析編]』(日経BP社)の執筆者であるアモティ専務取締役の丸山宏行氏が、IoTを駆使したスマート家電の将来動向について分析する。

特許動向の分析は、未来の市場トレンドを先取りする道標に

 IoT(internet of things)は「モノのインターネット」とも呼ばれるが、その定義が明確ではなく、実像を捉えにくい。一方で、世界中の技術系企業がこぞってIoTをキーワードに開発資源を集中させている。その一端が特許動向に表れる。

 企業では開発資源の集中により、技術的優位性を確保するため、組織的に特許出願をする。何年か先にその一部が企業の柱となる事業に発展し、市場に付加価値をもたらす。特許動向の分析は、未来の市場トレンドを先取りする道標になるのである。定義が曖昧なIoTだからこそ、特許という具体的な情報を基に全体を俯瞰することで、その実像が見えてくる。

 ただし、既存の特許分類ではIoTに直接的に該当するものがない。そのことがIoTに関連する特許の分析を難しくしている。そこで、身の回りの様々な機器やデバイスのインターネット利用シーンを想定し、そこから得られる技術的な課題となるキーワードを抽出。そのキーワードに関連する特許を分析することで、IoTに関連する今後10年の技術動向の予測を試みた。

 具体的には、技術論文や政府刊行物、Webサイト上の情報と、特許分析結果の対比を行い、該当テーマ全体の企業戦略の変遷、技術動向の変遷をまとめた。単なる出願件数の比較ではない、特許評価スコア(特許の重要度)による比較と、今後10年の主要特許の権利残存状況をマップ化している。

 未来予測は、過去の技術動向、権利の残存する主要な特許群との対比から行っている。従来の特許調査ではノイズとして扱われた、一見関連性の低そうな特許公報も重要な情報となる。ノイズとして扱われた枝葉の部分が、生き残っていく幹の部分とどう関係していくか、情報をひも解き、市場トレンド、商品トレンドの流れを加味した。さらに、今後10年の方向性に関して注目に値する特許公報をピックアップしていくことで、技術動向予測の肉付けを行っている。

「スマート家電」では海外ICT関連企業が強い

 ここでは事例として、「スマート家電」のテーマにIoT関連特許について分析・予測した内容を紹介する。スマート家電とは、ICT(情報通信技術)を活用することによって、単独で動く既存機器では実現不可能な新たな機能を実現する家電製品のことを指す。グローバルに出願された特許を対象にした分析だ。

 今後10年の傾向としては、スマート家電周辺のIoT分野の技術開発が加速し、特許出願件数は増加傾向と推測できる。遠隔操作、リモコンの延長で、より利便性の高いユーザーインタフェース(UI)が開発テーマになる。米Apple社はもとより、米Amazon.com社、米Qualcomm社などがスマート家電のユーザビリティー向上をテーマに特許評価スコアの高い特許を出願している。

 これは、その後のビッグデータを活用した統計・解析、人工知能(AI)処理との連携をにらんだ特許出願と推測できる。天候、イベントなどの外部情報や利用者の動向、購買情報をからめた、操作体系の変革につながる技術開発だ。リモコンなどの遠隔操作を使いやすくする改善は日本の企業の特許出願にも見られるが、IoTに関連した外部の情報ソースとの連動技術では、海外のICT関連企業が強い状況となっている。

図1 出願人ごとの特許出願件数の推移
図1 出願人ごとの特許出願件数の推移
(出所:アモティ、日経BP社『IoTの未来 2017-2026[特許分析編]』より)
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 現時点でのスマート家電関連の出願件数を見るとQualcomm社が最多となっており、このほか通信機器メーカーからの特許出願が多い(図1)。2013年に特許出願が急増しており、これは韓国LG Electronics社をはじめ、多くの企業に当てはまる現象である。2014〜2015年の出願ではまだ未公開特許があるため、2013年以降、急増傾向が続いているといってよさそうだ。

 家電メーカーでもスマート家電に関する特許出願は多く、IoTは次世代家電の注力技術として、開発競争が激化している状況が見受けられる。ただし、パナソニックは、2000年代の特許出願の勢いが2010年代には見えない。