脳機能のトレーニング、その効果を測定
世界的に高齢化が進む中、「認知症」の対策は世界の共通課題となっている。国際アルツハイマー病協会の推定では、世界の認知症患者数が2050年で1億3000万人に達すると予想されている。対策が必要な人数は、認知症予備軍を入れると2億~3億人になるという。その対策の一つとして有望視されているのが、「ICT(情報通信技術)を利用した認知症の早期発見と、脳の回復・活性化」(ビジネス工房代表取締役の緒方真一氏)である。
脳は適切なトレーニングを行えば、一度低下した機能を回復できる「可塑性」を有するとの報告がある。こうしたことから介護施設では、認知症の予防や進行を抑制するために脳機能をトレーニングするゲームやリクレーションを導入している。米国ではインターネットを使った脳トレーニングのサービスを提供する企業もあるという。脳トレーニングによる認知症予防効果の検証はこれからだが、「今後多くのデータに基づくエビデンス(科学的根拠)が蓄積されるにつれて普及が進む」(緒方氏)と期待が高まっている。
こうした脳トレーニングの効果を見る上で必須となるのが、脳の活動状態の測定である。日立ハイテクノロジーズは、脳活動データをリアルタイムで計測するウエアラブル型計測装置を製品化し、研究開発向けに2015年9月に発売した(図1)。
脳活動の計測は脳波を検出する方法が一般的だが、信号が微弱でノイズの影響を受けやすく、特別な測定環境を整えないと必要な信号の抽出が難しいという問題があった。日立ハイテクノロジーズの計測装置は、近赤外光により脳の血流量の変化を検出する「光トポグラフィ」技術を活用することで、日常の環境下でも手軽に計測できるようになったという。脳活動の変動には個人差があるため、脳トレーニングのプログラムは個人ごとに最適化する必要がある。
今回の計測装置を使えば「効果の有無を簡単に確認でき、アプリ開発が加速する」(同社 新事業創生本部 ブレインサイエンスビジネスユニットの谷波晃一朗氏)という。