日産自動車は2016年8月、高速道路の単一レーンの自動走行が可能な自動運転機能「パイロットドライブ1.0」を搭載した新型車を発売します。まだ、人間の常時監視が必要な「レベル2」の段階ではありますが、いよいよ自動運転時代の幕が開けたといえます。とはいえ、真に革命的な変化をもたらすと思われる「レベル4」の完全自動運転を実現するには、まだしばらく時間がかかると、これまでは考えられてきました。

 ところが、完全自動運転の実現に向けて、世界が大きく動き出す「事件」が起こりました。それは2016年4月に、国際連合(国連)で驚くべき決断がなされたことです。現行の国際道路交通条約では、運転者のいないクルマの公道走行を禁じており、このことが完全自動運転車の公道での実験の障害となってきました。ところが国際道路交通条約の改正などを協議している国連欧州経済委員会(UNECE)は、「遠隔制御」を条件に無人運転車の公道実証実験を認めるという画期的な決定をしたのです。

 これまでレベル4の完全自動運転車を実現するには、ドライバーの乗車を前提としている現行条約の改正が不可欠と見なされてきましたが、その改定を待たず、「遠隔制御」という条件は付くものの、ドライバーが運転席にいないクルマの公道走行が認められたわけです。「遠隔制御をする監視者が複数のクルマを同時に監視してもいいのか?」など運用の条件はそれぞれの国に任されることになっており、世界各国はいっせいに完全自動運転技術の実用化に向けて走り出しました。

国家戦略でも2020年の無人自動走行サービスを目指す

図1●官民ITS構想・ロードマップ2016
図1●官民ITS構想・ロードマップ2016
2020年の東京オリンピック・パラリンピックまでに、無人自動走行による移動サービスや高速道路での自動走行の実用化を目指す。(出典:「官民ITS構想・ロードマップ2016」、首相官邸ホームページ)
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 これを受け、日本では2016年5月20日に決定された「官民 ITS 構想・ロードマップ 2016」〔高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(以下、IT総合戦略本部)〕に基づき、2020年の東京オリンピック・パラリンピックまでに、無人自動走行による移動サービスや高速道路での自動走行が可能となるよう、2017年までに必要な実証実験を可能とする制度やインフラ面の環境整備を行うことになっています(図1)。

 また、このような自動走行を含む ITS のイノベーションを推進するため、同ロードマップに基づいて総合科学技術・イノベーション会議における戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の研究開発プロジェクトや、道路等に設置される車両感知器などの交通データ基盤の整備と利活用等に取り組むこと、企業の枠を越えて自動走行地図の仕様を統一し、これを基に2016年度中に国際標準を提案することなどが進められることになっています。また、官民連携で地図関連データの整備を進め、早ければ 2018年までの早期実用化を目指すことも明記されました。