アトキンソン 50歳以上の人たちのことを否定するわけではないですし、もちろん解雇したりするわけでもありません。「あなたたちは、先生になってください。親方を譲ってください」と話しました。やはり歳を取ると、どうしても仕事のペースは落ちてしまう。若い人たちは力を持っているのに、親方たちのペースに合わせて仕事をしなくてはならないので、それでは仕事がうまく回らなくなってしまうんです。ですから、下の世代に主導権を渡し、若い人にチャンスを与えることにしました。主導権を得ることで、若者たちはさらに仕事に燃えていくことになった。
川口 成功体験がある上の世代の人たちは、何も変えずにこのままの方がいいとなってしまいがちです。でも、若い人たちを応援することがおじさんたちの役目ですからね。世界最高峰の歴史あるバレエ団のプリンシパルになる若者もいれば、ストリートダンスの世界選手権で頑張る若者もいる。その幅の広さを「ヒップホップダンスは好きじゃないけど、新しいことをやっているならいいよね」と愛でることができるかどうか。
アトキンソン そうなんです。そういう意味でも、若い人たちにバトンを預けるべきだろうと。小西美術工藝社でもそうですが、おじさんたちの仕事は、若者を支え、何か問題が起こった時に後始末をすることなんですから。「生涯現役」という言葉がありますけれど、うちの会社では「障害現役」と書きます。障害にならないようなら現役でいいけれど、障害になるような現役にはなるなという意味です。
日本は確かに人口減少時代に入りましたが、減ったとしてもドイツや英国を上回っていますから、先進国では米国に次いで2番目の人口大国です。1億人国家は世界に12カ国しかなくて、その中にまだ入っている。だから、世界のあらゆるところで日本人が活躍するのが当たり前で、できていないなら何か問題があるということなんです。
そうだ、川口さん。今度は、「いかに、私たち、おじさんたちの力がないか」ということをデータで証明する本を書いてみてくださいよ。日本には隠居という素晴らしい文化があるんですから、早めに引退して隠居しましょうということを伝えるんです(笑)。
若者に広がる「諦観」の正体
―― ただ、日本の今の若者にはお金もうけに興味がない人が多いという印象がありますが。
アトキンソン いや、そんなことはないと思います。若い人たちは、基本的にお金を持っていません。だからこそ、お金もうけをしたいという気持ちが強いんです。それが若い人の普通の姿です。
川口 ただ、日本の若者に「諦観」の気持ちがあることも否定できないですね。数で言ったら圧倒的に上の世代の方が多いわけですから、どうしても上の世代の言い分が社会的に通りやすくなってしまう。そうなると、エネルギーの無駄遣いというか、諦観という時代の気分が出てきてしまうんです。
アトキンソン 確かにそれはありますね。51歳の私ですら、上の世代との対立には疲弊してしまうことがあります。明らかに変えるべきだというものがあるのに、上の世代には全然話が通じない。周りの若い人たちに意見を聞くと彼らも変えるべきだと思っているのに、上の世代はあの手この手で変えないんです。若者たちからすると「アトキンソンのような外国人が言っても変わらないならもういいよ」となってしまう。これはものすごく残念なことですよ。