日本復活のカギは若者にあり

―― 日本のエレクトロニクス産業をはじめ、大手企業のものづくりの現場を見ると、今のアトキンソンさんの話と相似形のことが起きているのではないかと感じることがあります。では、日本が日本流で復活するには、どんなことが必要ですか?

川口 やはり、カギになるのは若者だと思います。

 今、王道の分野だけではなく、新興の分野やニッチな分野でも、世界の最先端で頑張っている日本の若者がたくさんいるんですよ。例えばダンスの世界でいうと、先日、英国ロイヤルバレエ団で2人の日本人バレエダンサーがプリンシパルに昇格しましたよね。ダンスでは、王道の分野です。今回の著書を執筆するに当たって調べたんですが、一方で、その対極にある新興分野のストリートダンスでも日本の若者は非常に頑張っていて、日本はフランスに次いで世界2位の力を持っています。

川口氏の著書『日本人も知らなかった日本の国力(ソフトパワー)』(ディスカヴァー21)
川口氏の著書『日本人も知らなかった日本の国力(ソフトパワー)』(ディスカヴァー21)
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 日本の若い人たちは、ある特定の分野に強いわけではなく、好奇心の赴くままに様々な分野にチャレンジしている。別に国が命じたわけでもなく、彼らが勝手に世界に出掛けていって、勝手に頑張っているんです。これはすごいことだなあと思います。

 前回の東京五輪の時に日本国民の平均年齢は26歳で、今は46歳です。約60年で20歳も平均年齢が上がったんですよ。前回大会では選手の世代が街を歩く平均的な人だったけれど、今は大会を運営する背広を着た人たちが平均なんです。それを考えると、社会が保守的な方向に進んでいる理由が分かる気がします。でも、若い人たちはへこたれずに好奇心を保ち続けている。そこに「日本は滅びない」という感じがあるわけです。

 年寄りは、そうした好奇心を愛でて、応援しながら、ソフトパワーをお金に換えるためにサポートしていくべきです。その取り組みが、日本の復活につながると思っています。

アトキンソン 私も川口さんの考えに同感で、若者の力が必要だと思っています。川口さんの本で取り上げている世界で活躍する才人たちも、平均年齢を出すと20代とか30代とかじゃないですか。ノーベル賞だってほとんどの場合、実際は20〜30代での業績がおじいちゃんになってから“優勝”と見なされるわけで。

 やはり、私たちの年頃になると「怠け者」になるんですよ。それはなぜかというと…。

デービッド・アトキンソン。小西美術工藝社 代表取締役社長。1965年英国生まれ。オックスフォード大学で日本学専攻。アンダーセン・コンサルティング、ソロモン・ブラザーズを経て、1992年にゴールドマン・サックス入社。日本の不良債権の実態を暴くレポートを発表し、注目を集める。1998年に同社マネージングディレクター、2006年同社パートナーを経て2007年退社。2009年に小西美術工藝社に入社し、2011年から同社会長兼社長に就任。(写真:加藤 康)
デービッド・アトキンソン。小西美術工藝社 代表取締役社長。1965年英国生まれ。オックスフォード大学で日本学専攻。アンダーセン・コンサルティング、ソロモン・ブラザーズを経て、1992年にゴールドマン・サックス入社。日本の不良債権の実態を暴くレポートを発表し、注目を集める。1998年に同社マネージングディレクター、2006年同社パートナーを経て2007年退社。2009年に小西美術工藝社に入社し、2011年から同社会長兼社長に就任。(写真:加藤 康)
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川口 守りに入りますからね。

アトキンソン ええ。守りに入りますし、力が抜けていく。朝に起きるともう疲れている世代なので。江戸や明治の時代の日本に活気があふれていた理由は、簡単に言えば平均年齢が低く、若かったからですよ。

 小西美術工藝社は、かつて実質的には経営破綻に近いような状態でした。でも、今では困るくらいに仕事が増え、経営は上向きになっている。設備投資を拡大して、新規事業を始めたりすることもできるようになった。その間、たった7年です。社員を入れ替えたわけではありません。何が違うのかと。

 1つは、データを分析して不要なものを削ったこと。もう1つは、自分たちの世代、つまり50歳以上の人に仕事の主導権を握らせないようにしたことです。それで、業績が回復したんです。