日本のお国柄を定量分析した『日本人も知らなかった日本の国力(ソフトパワー)』(ディスカヴァー21)の著者である川口盛之助氏と、国宝や重要文化財の補修を手がける小西美術工藝社 代表取締役社長のデービッド・アトキンソン氏による対談の第2回。2020年東京オリンピックを前にして、さまざまなメディアで日本を見つめ直す企画が増えている。その中での日本は、規律正しく、誠実で、優れた技術を持った国として紹介されている。しかし、世界から見た日本は、本当にそのような国なのか。今回は、少子高齢化や貧困の拡大、インバウンド需要を題材に、日本が抱える課題をあぶり出す。
川口氏(左)とアトキンソン氏(写真:加藤 康)
川口氏(左)とアトキンソン氏(写真:加藤 康)
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後発国には真似できない日本の武器

―― アジアには急速に経済成長している国々があります。しかし、そうした後発の新興国は、文化面で日本に追いつくことは難しいと、川口さんは著書の中で指摘しています。

川口 日本は一般人の教養レベルが世界でもずば抜けて高い国なんです。これは、国際成人力調査(PIAAC)*1の結果でも明らかで、平均点が最も高いだけでなく、上下の差が世界で最も少ないという結果は誇るべきことだと思います。国民全体の教養レベルをここまで底上げするためには非常に時間がかかります。

*1 国際成人力調査:OECD加盟国など24の国と地域が参加し、16〜65歳の一般人を抽出して「読解力」「数的思考能力」など基本的な知識をみるテスト
川口氏の著書『日本人も知らなかった日本の国力(ソフトパワー)』(ディスカヴァー21)
川口氏の著書『日本人も知らなかった日本の国力(ソフトパワー)』(ディスカヴァー21)
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 確かに、日本に追い付こうという勢いで経済成長している国はありますが、そういった国々は、国全体のソフトパワーを伸ばすことまでは手が回らなかった。その分、エリート教育のような形で、少数精鋭に絞って予算を投下し、短い時間で結果が出る分野を伸ばそうとしている。例えばスポーツなどの分野です。

 でも、多くの分野で世界の最先端に通用するソフトパワーを生み出すためには、様々な分野で才能のある人を許容し、愛でて、養う余裕(パトロンシップ)が社会全体にないと難しい。社会にそうした余裕を持たせるためには、お金にならない分野も含めて、国民全体を育てなければならないんです。

 日本より後に豊かになった国は、豊かになるにつれて急速に少子高齢化が進んでいく。これから伸びてくる国は、自国のすそ野を広げる前に自らの高齢化に追い付かれるという宿命があります。つまり国の栄枯盛衰のサイクルが短くなっている。そういう意味で、後発の国々はパトロンシップの精神が生まれにくく、文化の面で日本に追い付くことは難しい状況なんです。

アトキンソン おっしゃる通りだと思います。ただ、今の日本には1つ問題がありますよね。それは、貧困率が上がっていることです。

 ここまでのソフトパワーを持っている先進国でありながら、貧困率がこんなにも高いという国はほとんど例がありません。貧困率が高まると格差が広がり、日本の武器の1つである平均的な知力の高さが失われてしまいかねない。

 確かに社会全体がパトロンシップを持つことで世界に通用するような人が育ちますけど、そればかりでは「農民のいない貴族社会」のようなものになってしまう。このままでは、国のシステムが崩壊してしまいかねません。

川口 そうですね。日本では、歴史的にこれまで積み上げてきたことの勢いで今の社会が動いています。積み上げてきた力は一朝一夕に真似できるものではないですから、そのありがたみをもう一度見直していかなくてはならない。

アトキンソン 日本は昔から資源がない国だといわれています。でも、逆に言うと、資源がある国は世界にほとんどないんですよ。自分の国の中だけですべてをそろえることができて、輸入に頼らずに済む国は本当に少ない。そんな中、日本は人間しか資源がない国ともいえるのに、ここまでやってくることができたんです。国際的な文化力の高さは川口さんの本で定量的に証明されていることなんですから、データで示された日本のソフトパワーをビジネスに生かさなくてはならないですよね。