2020年東京オリンピックを前にして、様々なメディアで日本を見つめ直す企画が増えている。その中での日本は、規律正しく、誠実で、優れた技術を持った国として紹介されている。しかし、世界から見た日本は、本当にそのような国なのか。知力やスポーツ、エンターテインメント、芸術などに関わる14の専門分野にわたる才人たちの活躍を定量化し、日本のお国柄を分析した『日本人も知らなかった日本の国力(ソフトパワー)』(ディスカヴァー21)の著者である川口盛之助氏と、国宝や重要文化財の補修を手がける小西美術工藝社 代表取締役社長のデービッド・アトキンソン氏が「日本は世界からどう見られているのか」、そして「日本はこれからどうなっていくのか」について語り合った。
川口氏(左)とアトキンソン氏(写真:加藤 康)
川口氏(左)とアトキンソン氏(写真:加藤 康)
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情緒的な“証拠”で国を語るべからず

―― 川口さんが執筆した『日本人も知らなかった日本の国力(ソフトパワー)』は、日本のお国柄を才能の総量を表す「グロスナショナルタレント(GNT)」という独自指標で定量分析したものです。文化を可視化するという、今までにない切り口の日本文化論を読んで、アトキンソンさんはどのような感想を持ちましたか?

アトキンソン 最近、いろいろなメディアで日本にとって都合のいい話ばかりを取り上げ、「日本は素晴らしい国だ」と持て囃すような企画が目立ちます。オリンピック招致のときには「日本は財布を落としても、ほぼ確実に戻る国」ということが話題になっていましたけど、実際のデータを見てみると、財布が戻ってくるケースは4割ほどでしかない。

 つまり、「財布を落としてもほぼ確実に戻る」という事実はないわけです。そうした一部の事例だけを挙げて日本は素晴らしい国だと言っても、それは本当の国力とはいえません。

 これは、ビジネスを論ずるときにも当てはまることです。ビジネスはしっかりとデータを分析し、きちんとした裏付けが必要なのに、一部の成功事例を取り上げて、あたかも日本全体が成功に寄与したかのようにフィーリングや情緒で提示する話になってしまいがちなんですよ。

川口氏の著書『日本人も知らなかった日本の国力(ソフトパワー)』(ディスカヴァー21)
川口氏の著書『日本人も知らなかった日本の国力(ソフトパワー)』(ディスカヴァー21)
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 そうした中で、川口さんの著書では、非常に多くの数字を出して日本の国力(ソフトパワー)を客観的に分析しています。日本に都合のいい数字や分野だけではなく、日本が世界の中で下位に位置するテーマも取り上げている。データを用いることで、真の国力というものを知ることができる。こういったアプローチは非常に素晴らしいと思いました。

川口 ありがとうございます。アトキンソンさんもおっしゃるように、テレビなどで日本人や日本文化を論じようとするとき、どうしても日本を自画自賛し、いいお話にまとめたものになってしまいがちです。

 でも、そうした日本を礼賛するばかりのものが増えていくと、本当の日本というものが分からなくなる。「日本人特殊論」のような右翼的、国粋的な話になって、これは危ういことなんじゃないかとも思うんです。

 だから私は、もっと客観的に、定点観測するように日本のソフトパワーを分析してみたかったんですよ。