日本が持つ「ソフトパワー」という資産
川口 そもそも今回の本の執筆は、私が抱えるコンプレックスから始まっているんです。
アトキンソン コンプレックスですか?
川口 ええ。私は今55歳ですが、この年齢になっても欧米コンプレックスがあるんです。若い頃は洋楽にあこがれ、外車にあこがれていましたから。
日本は先進国といわれて久しいですが、私の中には「日本は本当に世界から尊敬されているんだろうか?」という思いがあります。アトキンソンさんは日本を愛してくださっているので、こういうことを話したら「もっと自信を持ちなさい!」と叱られてしまうかもしれませんけど(笑)。ただ、「何だか自信が持てない俺たち…」という思いは、多くの日本人が感じているものだと思います。
特に今の日本には、少子高齢化という大きな社会課題があります。私は未来予測をテーマに研究を進めていますが、どの未来予測本を読んでも「日本の未来は暗い」と書かれています。
平均寿命が延びたことで生物学的には成熟した国になっているけれど、「本当の意味で日本は成熟した国なんだろうか?」「世界は日本を成熟した国として見ているんだろうか?」という思いが出てきたんです。本当の日本の評価を知るためには客観的な数字から見るしかないと思いました。
データで国を見るとき、「国内総生産(GDP)」をはじめ、「1人当たりGDP」「軍事力」「人間開発指数(HDI)」といった指標もありますが、それでは表面的なことしか見ることができない。だから、もっと深層にある「感動」という部分に着目しようと考えました。感動を与える人、つまりはその国の「ソフトパワー」を数値化することで、「日本人は本当に世界に感動を与えているのか」を分析しようと思ったところが出発点です。
「クールジャパン」という今や使い古された言葉がありますが、「クールって、何だろう」とずいぶん考えました。小学校くらいでモテるのは、足が速かったり、算数ができたりする子供でした。大人になっても、そういう基本的なところを生かして生活ができている人。それが今回の本で取り上げた様々な分野の達人たちです。そういう人たちを愛でる貴族的な目や社会的な余裕こそが、「クール」の源泉ではないかと*1。
アトキンソン なるほど。川口さんは、この本を読む人にどう感じて欲しいんですか?
川口 先ほども話したように、今、日本の未来を悲観する声が多くありますけれど、自分たちには「ソフトパワー」という重要な資産があるんだということを知ってもらいたいんです。それによって、我々日本人は自信を持っていいと伝え、未来を悲観することの歯止めになればいいなと。
同時に、これだけの資産がありながら、実はその資産をちゃんとお金に換えることができていないという現実に気づいて欲しいとも思います。ソフトパワーをしっかりとお金にしていかないと、国は持たないんですから。