結論をひと言でいうと、世界のG7メンバーという肩書きに恥ずることのない堂々の文化的貢献が論証されたと考えています。ここで数値指標化しようとしているものとは、文化的な活動による世界的なプレゼンス、世界がハートで感じる感動量の総和です。美術作品や歌や踊りの世界はもちろんのことですが、一見理性の塊にも思えるノーベル物理学賞でさえ、突き詰めるとその研究の内容を美しいと感じたかどうかという査読者の感性が、最終的な決め手となっているのです。

筆者の近著『日本人も知らなかった日本の国力(ソフトパワー)』(ディスカヴァー21)
筆者の近著『日本人も知らなかった日本の国力(ソフトパワー)』(ディスカヴァー21)

 経済的に豊かになることももちろん大変な偉業ですが、これだけ広い分野における感動量の総和で第5位という成績は一朝一夕にできる代物ではありません。世代をまたいでじっくり積み上げきた賜物であり、個々の天才を支える人々から成る裾野の広さが求められるものです。結果全体を眺めてみるとBRICsやG20などの新興国には厳しい結果となっていますが、同時に追い付けそうな分野から着実に手を付けている様子も見て取れます。

 膨大なデータから世界の各国と日本を比較して見えてきた日本人の姿。それは、穏やかでありながら、粋や雅を解する上品さに満ちている、とてもチャーミングなものでした。何にでも好奇心をもって取り組む姿。中にはお金にならない分野も多々ありましたが、むしろそのような分野ほど喜々として取り組んでいる趣味人的な傾向すら伺えます。

 企業経営の分野では、選択と集中ができないとか百貨店経営的だとか叱られることの多い日本人ですが、まさにそのような性格が魅力として映し出されています。この日本の姿とは、霞が関官僚の描く国家戦略や、大企業の思惑といったような壮大な意図のもとにつくられたものではありません。恣意的に変えようもない、また変える必要もない、本当の意味でのありのままの日本です。

 拙著の目的は、このような分析結果から、どこを強化すべきだとか、どの弱点を改善すべきかといった提言を導き出すことにはありません。シンプルに日本の形を知ること、私たちの得手不得手を素直に認識することで、クールジャパンと称される姿なきものの正体を知ることができるというのが、メインメッセージです。

 世界に先駆けて高齢化が進む日本。生物学的には46歳という平均年齢は、欧米先進国を一気に抜き去って成熟国となり、経済規模も今後シュリンクすることは覚悟せざるを得ないでしょう。しかし枯れた老成国になるのではなく、子供のように若々しく好奇心を持ち続け、あるいは新しく奇妙なヒップホップカテゴリーにのめり込む若者を愛でる器量が求められるのだと思います。