今のままの日常生活を続けたら、将来自分がどのような体型になり、どのような歩き方になるか——動くアバター(自分の分身)で示されると食生活や運動不足について真剣に考えるかもしれない。医療・健康、食品・農業分野の76テーマに関する今後10年の技術動向を見通した調査レポート「テクノロジー・ロードマップ 2017-2026 <医療・健康・食農編>」(日経BP社)で、「健康状態のスコア化/可視化」を執筆した奈良県立医科大学 産学官連携推進センター MBT研究所 研究教授の梅田智広氏は、これからの10年間で将来の自分の容姿をアバターで可視化することが当たり前になっていき、健康管理サービスの継続性の問題を解決する決め手になると見ている。

 超高齢社会で医療費削減は大きな課題であり、費用対効果に優れた健康管理サービスが求められる。その中で重要な要素は、個人に未来の健康状態を示し(見える化)、行動変容につなげることである。この見える化のために計測データに基づいた健康状態のスコア化/可視化を検討し、それを健康診断や健康管理サービスに活用していく。今後、国民の健康増進や医療費削減のために、予防・健康管理などの健康サービスの積極的な活用が企業や健康保険組合に求められている。

 健康管理サービスについては既に基本骨格は完成しており、顧客からのアクセスも可能になっている。健康管理は継続こそが重要で、そのためには個人の行動変容をもたらす仕組みが必要となる。これまでもインセンティブモデルなど多くの枠組みが検討されてきたが、今後は費用対効果の高い自立したサービスモデルが必要である。単なる連携で終わることのない仕組みやサービスの継続性が問われる。

3Dグラフィックスの分身で可視化

 健康状態のスコア化/可視化は、継続性の健康管理サービスを実現する客観評価で有効な技術となる。計測データを活用し、統計的に得られる客観的スコアは様々な分野でサービスへの取り込みが検討され、インセンティブモデルや保険、年金商品への応用が進む。一方、可視化の観点では単にスコアで点数化することから一歩進み、3次元(3D)グラフィックスで描いた「3D自分アバター(以降、アバター)」の活用など、新たな技術と連携したサービスが今後本格化することになりそうだ(図1)。

図1 アバターで自分の健康状態を可視化した例(図:筆者)(日経BP社『テクノロジー・ロードマップ 2017-2026 <医療・健康・食農編>』)
図1 アバターで自分の健康状態を可視化した例(図:筆者)(日経BP社『テクノロジー・ロードマップ 2017-2026 <医療・健康・食農編>』)
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 健康診断を受けても、そのデータを把握している人は少ない。アバターによる自分の姿の見える化は、自らを客観視することにつながり、自分の身体の状態を把握することになる。現在の計測データに過去のデータを時系列で加えれば、体のどの部分が太りやすいかが分かると同時に、これまでの傾向に基づいて「太ったら、将来どのような容姿になるか」「その時に自分は、どのような歩き方になるか」といった“数年後のリアルな姿”をアバターで再現できる。

 模範となるデータを読み込ませることで、このアバターはそのデータに基づいて動作する。それによって、本人は自分の理想の姿を見ることができる。これは、スポーツのトレーニングの現場でも活用できるだろう。例えば、一流スポーツ選手の動きをまねするとき、アバターがその動きをしている姿を見るのと見ないのでは習得度が異なるに違いない。同様な効果をリハビリに活用したり、クラウドを利用した介護の見守りに活用したりするなど、多方面にわたって有効な活用を期待できる。

 ロコモティブシンドロームの予防を主目的としたサービスや、従業員50人以上の事業所で2015年12月から義務化されたストレスチェックにも身体のスコア化/可視化は活用される。例えばロコモの展開では、計測データから筋肉スコアや寝たきり年齢、その時の姿を動き付きのアバターで提示することで、ロコモ予防活動につなげられるだろう。