前回、テクノロジー・ロードマップが当たるかどうかは、技術の軽視や技術の偏重で決まるものではないことを指摘した*1。問題の本質はそこではなく、市場価値に基づいて技術が進化することを認識していないことにあるからだ。自動車、エネルギー、医療・健康など12分野、100テーマに関する今後10年の技術動向を見通したレポート『テクノロジー・ロードマップ 2016-2025 <全産業編>』(日経BP社)の編集を手掛けた日経BP未来研究所の朝倉博史・上席研究員は、発想を変えて正しい作成プロセスを実行できれば、テクノロジー・ロードマップは企業に利益をもたらす道しるべとなると見る。
*1 前回のコラム「技術軽視、技術偏重の落とし穴」は、こちら

燃料なくして進化なし

 正しいロードマップというものは、どこにも存在しない。それが未来予測の要素を含む以上、必ず当たるということはあり得ないからである。

 そうではあっても、予測の確度を上げる方法はあるだろう。確度を高めたロードマップを使うことで、「10のうち一つでも当たれば大成功」などといわれる研究開発において、その1を10にすることはできなくても、2にし、3にすることはできるはずだ。

 そのためにすべきは、テクノロジー・ロードマップの作成プロセスにおいて「技術進化のメカニズム」、すなわち「燃料なくして技術の進化なし」ということを強く認識するということである。

 燃料とは、開発費や開発スタッフ、開発に必要なツールなどを指す。それを投入することで技術は進化し、進化のスピードはその投入量に依存する。

 その投入量は、「その技術がどれだけの利益をもたらすか」ということによって決まる。企業は事業を営むことで利益を上げ、その利益を技術開発などに投資する。利益の源泉となる技術には大きな資金と人材を投じるが、そうではない技術にリソースを投入することはない。

 その「どれだけの利益をもたらすか」ということこそが技術の価値ともいえる。その価値とは学術的価値ではなく、マーケット的価値だということだ。顧客ニーズがあるものが市場においては「価値がある」ものであり、それを具現化する技術こそが価値のある技術、燃料投下の対象となる技術なのである。

 端的に言ってしまえば「顧客ニーズのある技術は進化し、ない技術は停滞する」ということだろう。技術の進化を予測するためには、まずは顧客ニーズの将来について予測しなければならないということになる。市場の変化を読み、将来の顧客ニーズを予測し、それを満たす製品やサービスの出現を予測する。それができて初めて、それら製品やサービスを実現するための手段としての技術を想定することができ、技術の進化過程を表現することが可能になる。