着るだけで心拍などの生体情報を計測できる「スマートウエア」の開発が加速している。スマートフォンなど通信機器と組み合わせることで、高齢者の身体状態を把握する「見守りサービス」への活用が期待される。医療・健康、食品・農業分野の80テーマに関する今後10年の技術動向を見通した「テクノロジー・ロードマップ 2016-2025 <医療・健康・食農編>」で、「見守り」の未来動向を執筆した奈良県立医科大学 産学官連携推進センター 研究教授の梅田智広氏の予測によると、ICT(情報通信技術)を活用した「見守りサービス」の世界市場規模は「2015年の5300億円から2020年に7000億円、2025年には8900億円に拡大する」という*1

深刻さが増す介護問題

 高齢者人口の増加とともに介護問題の深刻さが増している。厚生労働省によると、2010年に国内の要介護認定者数は500万人を超え、75歳以上の人の3人に1人は「要介護」となった。一方で、それをサポートする介護人材が不足しており、団塊の世代が75歳を上回る2025年には介護職員の不足が37万7000人に上ると推計している。

 そこで期待されるのが、ICTを活用した「見守りサービス」である。介護を必要とする高齢者の身体状態をセンサーで把握し、安否を確認したり、緊急時に通報し駆けつけたりする機能を持たせることで、介護業務の負担を減らし、介護人材の不足を補える可能性があるからだ。

 さらに、病院よりも自宅で「看取られたい」と希望する人が増加しており、厚労省も自宅での看取りに診療報酬を加算するよう後押ししている。こうした看取りまで含めた自宅での「見守りサービス」は今後、急速にニーズが高まるだろう。これに対応してICT企業を中心に今後参入が増えることが見込まれ、「競争によって付加価値の高い特徴のあるサービスが投入される」(奈良県立医科大学 産学官連携推進センター 研究教授の梅田智広氏)との見方が強い。

高齢者に受け入れられるには

 ただ、実際には、既存の高齢者向け「見守りサービス」の契約者数は伸び悩んでいるという。原因としてサービスの認知度の低さもあるが、よく指摘される点として、体にセンサーを直接貼り付けたり、いかにも監視するようなカメラを置いたりするなど、高齢者に心理的な負担をかけるものがまだ多いという現状がある。

 特にICTを活用したサービスは技術を前面に押し出してしまいがちとなり、「新しいシステム、ハイテク機器に関心を示さない、受け入れない高齢者が多い」(梅田氏)という。「見守りサービス」の普及には、高齢者が普段の生活の中で意識せずに使えるようなサービスをつくり込む必要がある。

*1 見守り用カメラを含む周辺機器市場より梅田氏が独自に推定した