特許は、技術の未来を映し出す鏡。研究開発段階の有望技術がそこに開示されているからである。だが、それだけではない。未来における「産業界の勢力図」を予測するための重要なツールにもなるのだ。「特許分析は過去の技術調査をするためのもの」という常識を覆し、特許から未来の技術動向を予測した『特許未来マップ 2016-2025』の監修・執筆者であるアモティ専務取締役の丸山宏行氏が、特許が語る自動運転技術について分析する。

注力技術や新たな着想などを特許から読み取る

 企業がこれから注力する技術、自分たちが強みを発揮したい技術、将来の主力製品につなげたい新たな着想などを、その企業が出願した特許から読み取ることができる。さらに、複数の特許情報を重ね合わせることで、企業間の勢力図の変化が透けて見えてくる。

 こうして得られる情報は、企業が発表した内容や一般に報道されているものとは必ずしも一致しない。「あの企業は畑違いの技術に強い興味を持っている」「この新技術で既存の技術を置き換えようとしている」といった、実は知られていない重要な情報が、特許の中に隠されていることが多い。

 技術の未来像という点では、技術の進化の方向を時系列で表した「テクノロジー・ロードマップ」がある。これは将来の市場ニーズとの接点から未来像を描いたものだ。とても有用なものだと思うが、ここから具体的な企業の技術開発主体などはあまり見えてこない。「特許戦略マップ」は、これを補完するものだといえる。

 すなわち、特許の出願件数や出願時期の違いによる残存期間を企業ごとにマッピングし、今後の10年の主要プレーヤーのトレンドを分析した結果が『特許未来マップ 2016-2025』では開示されている。「テクノロジー・ロードマップ」と「特許戦略マップ」を組み合わせることで、「思わぬ伏兵にやられる」といった事態を避け、より実現性の高い中長期戦略の立案につなげることができると考えている。

従来は過去の状況分析

 特許を活用した技術動向分析においては一般に、「先行技術調査」というものがよく使われる。ある技術で先行していると思われる技術開発主体の過去の状況を調査するものである。既に出願された特許の内容を明らかにした「特許公報」を分析対象とし、その後に出願された内容と比較、技術としての新規性の有無を評価するのである。

 ただ残念ながら、従来の特許調査は企業の知的財産部門によって実施され、主に同部門内で過去の出願状況を整理するために使われるのが一般的だった。この調査が研究開発指針を決める際に積極利用されるケースは、現状では稀だと言えるだろう。

 しかし、特許は、権利が残存する間、権利を持つ企業がその技術を使い続けるものである。その意味で、「特許公報」は、未来に使われている技術を先取りする設計図と見ることもできる。研究開発(R&D)戦略を立案するうえで、これほど重要な情報はないと思うのである。