日本国内でも遠隔診療サービスを開始するベンチャー企業が登場し、にわかにざわついている。実態としては、へき地医療や慢性疾患、在宅医療などを中心にこれまでも遠隔診療がなされてきたが、ここにきて、厚生労働省が2015年8月10日に出した通達*1が、一部の関係者に「遠隔診療の事実上の解禁」として捉えられていることが大きい。
これは、いわゆる「平成9年遠隔診療通知」の解釈について、従来は「限定」として解釈されていた具体的利用環境や疾患について、「例示にすぎない」としたものであり、結びとして「患者側の要請に基づき、患者側の利点を十分に勘案した上で、直接の対面診療と適切に組み合わせて行われるときは、遠隔診療によっても差し支えないこととされており、直接の対面診療を行った上で、遠隔診療を行わなければならないものではない」としたのである。
また同時に、政府・与党のさまざまな会議や検討会、さらには「骨太の方針」などを通じて、「医療におけるICT(情報通信技術)の利活用」や、中には具体的に「遠隔診療」という言葉が発信されるなど、「政府・与党の意図」が伝わるようになったことも大きい。もちろん、止まらぬ医療費の増大という社会背景や、グレーゾーン解消など政府・関係者が地道に進めてきた改革のお膳立ても大切な要素であろう。
そして、これらの変化を敏感に捉え、まずはベンチャー企業が動き出した。自己採血ステーションの登場やドラッグストアにおけるさまざまな検査の実施、そしてついには遠隔診療が登場したのである。
例えば、IT関連企業のポートは、スマホなどを用いて医師の診療を受け、必要に応じて医薬品を受け取れる遠隔診療のサービス「ポートメディカル」を2015年11月に発表した*2。
公教育と並び、「変わらぬ業界」と信じられてきた医療の現場も、少しずつ変わろうとしている。我々国民はその契機を前向きに捉え、社会の全体最適はもちろんのこと、世界に先行する高齢社会として地球規模の貢献を目指していきたい。
もっとも、医療のイノベーションの動きは日本に限ったことではない。むしろ、制度や文化など、市場環境の異なる世界各国では既にさまざまな「実例」が生まれつつある。