昨今の半導体業界では大型のM&A案件が目立つようになり、この流れは当面続きそうだ。M&Aを画策する各社がどのような将来像を描いているのか、10年後にどのような市場に期待ができるのか、見方はそれぞれ異なるだろう。

 ただし、IoT関連の需要が伸びそうなこと、車載や産業機器分野の成長率が高そうなこと、などについてはある程度共通の認識がありそうだ。昨今のM&A案件を見ても、これらの分野を意識して行われていると考えれば納得がいく。今回は、M&Aの背景の1つである「自動車用IoT」に関して、今後どのような変化が起こり、どのような市場に期待ができるかについて私見を述べたい。

 パソコンやスマートフォンは既にネット接続が当たり前の機器であり、今さらIoTの重要性を強調する対象ではない。家電はいまだネットに接続していないケースが多いが、これは技術的親和性の問題ではなく、単にその必要性が低いためだろう。

 対して自動車と産業機器は、これまではネットに接続されていない場合が大半で、今後接続されることで新しいサービスの登場が期待される。あるカーディーラーによれば、最近の新車は「スマホと接続できないと売れない」らしい。スマートフォンとの接続さえできれば、スマートフォンで活用できるコンテンツを車内のディスプレーに表示したり、スピーカーから音を出したりできる。車内の情報をスマートフォン経由で車外に発信するようになれば、クルマもIoT端末の1つになる。

 さらに一歩進んで、スマートフォンに頼るのではなく、自動車自身がM2Mモジュールを搭載してネットに接続する「Connected Car」も急速に増えつつある。例えばドライバーが事故を起こした場合、最も近い緊急対応センターに自動的に通信が行われる「eCall」(緊急コール)システムは、Connected Carの重要な用途の1つ。欧州では2018年4月以降に販売される新車には、M2Mモジュールを搭載することが義務付けられた。日本でもeCall施設が導入されている地域があり、世界各地で普及の動きが見られる。

 eCallの他にも、TSP(Telematics Service Provider)と呼ばれる事業者が、自動車の安全性や利便性に関するさまざまなコンテンツやサービスを提供し始めた。特に米国ではこの分野における競争が激化しており、日本でもさまざまなサービスが立ち上がりつつある。

 Connected Carに不可欠な車載M2Mモジュールの2016年の世界出荷数量は約3000万台と予想され、これは既に世界の新車生産台数の30%以上に匹敵する。この比率は年々増加し、2019年には50%に達するとIHSでは予測している。

 トヨタ自動車とKDDIは2016年6月、Connected Carを日米で本格展開すると発表した。国や地域で仕様が異なる車載通信機を2019年までにグローバルで共通化し、2020年までに日本・米国市場で販売するほぼすべての乗用車に搭載する計画である。この仕組みを他の自動車メーカーにも開放する予定という。