売り込み活動は不要、物流業務に徹してほしい――。半導体商社に対し、こうした要求をする半導体メーカーが増えつつあるという。

 半導体商社はこれまで、半導体メーカーの営業活動を代行することを生業とし、その対価としてマージンを確保してきた。そんな各社にとって、メーカーからの最近の要求は自社の付加価値や存在意義を否定されるに等しく、死活問題と言って良い。半導体メーカーのWeb戦略、すなわちWebサイトを活用したマーケティング戦略が充実すればするほど、この問題は深刻さを増してくる。

 半導体メーカーにとって、Web戦略はマーケティングの一環として非常に重要な役割を担っている。ターゲット顧客を自社のWebサイトに誘導するためにどのようなリンクを張るか、誘導してからどのような情報をどのような形で見せるか、各社ともさまざまな工夫を凝らしている。Web戦略はマーケティング戦略の一つの集大成とも言え、その出来が良ければ自社および商社の営業活動の負担を大幅に減らすこともできる。

 例えば、米Texas Instruments社(TI)はWeb戦略に力を入れている半導体メーカーの一つ。同社はどの顧客がどの情報にアクセスしたかを管理し、その際に行うべき営業活動をマニュアル化することによって、営業活動の徹底的な効率化を図っている。世界に10万社もの顧客がいるので、商社を活用しなければ営業活動が行き届かない――。そんな発想に基づくかつての人海戦術型のマーケティング戦略を大きく変えようとしているのだ。

 Avnet社やArrow社などの大手半導体商社、いわゆるメガディストリビューターでさえ、こうした動向と無縁ではいられない。両社とも、これまではグローバル市場における営業活動と物流業務の両方を強化してきたが、ここにきて両社の戦略の違いが徐々に顕在化している。営業活動の強化にこだわりを持つAvnet社、物流業務に徹しようと割り切るArrow社、という形である。

 この違いは両社の株価にも表れ始めた。Avnet社の株価は2016年末から徐々に下がり始め、2017年4月27日に発表した四半期決算が芳しくなかったことで、株価はさらに下落した。一方のArrow社は、2017年5月4日にコンセンサスを上回る四半期決算を発表し、株価が跳ね上がった。

 決算の数字以上に注目すべきは、Analog Devices社やCypress社、Skyworks社など、複数の半導体メーカーがAvnet社との代理店契約を解消する動きに出ている、という事実だ。Avnet社とArrow社が顧客を奪い合っているというよりも、明らかにAvnet社に逆風が吹いていると映る。

 すべての半導体メーカーが「商社は物流に徹すべし」と主張しているわけではないが、こうした傾向が強まっていることに疑いの余地はない。結果として、商社のマージンは減少傾向にある。Avnet社のようなメガディストリビューターでさえ、この流れには抗えない状況なのだ。