東芝は2017年7月19日、米Western Digital社(以下、WD)に対する全面的なアクセス遮断の再開をニュースリリースで発表した。同社はNANDフラッシュメモリー事業の提携相手であるWDから、半導体子会社「東芝メモリ」の売却差し止めを求める訴訟を起こされている。WDは同社の合意がない売却交渉は無効だと主張しており、両社の対立状態が続いている。

 対抗措置として東芝は「売却交渉の妨害行為」を理由にWDを逆提訴したり、東芝メモリ四日市工場の情報システムへのWDのアクセスを遮断するなどの手段に出ている。WDが提訴した米国カリフォルニア州上級裁判所は、いったんは東芝に対して遮断措置を禁じる暫定命令を下した。ところがその後、これを不服とする東芝の申し立てを受け入れ、これを受けて東芝はWDに対する再びの情報遮断を決定した。本来はパートナーであるはずの両社の争いは、当面続きそうな状況である。

 この裁判がいつどのような形で決着するかについては、半導体業界だけでなく各方面が高い関心を寄せている。2社による協業に新たな企業が加わろうとする場合、当初の2社の合意が必要なのは一般論で言えば当たり前。今回のケースに照らせば、東芝がメモリ事業(あるいはその一部)を第3者に売却するためにはWDの合意が必要と訴えるWDの主張は、極めてまっとうに聞こえる。

 判決の行方をここで予想することは差し控えたい。だがいかなる判決が出ようと、この争いで両社が得をすることなど何もないということは断言できる。

図1●NANDフラッシュメモリーのメーカー別売上高の四半期ごとの推移(出所:IHS Markit Technology)
図1●NANDフラッシュメモリーのメーカー別売上高の四半期ごとの推移(出所:IHS Markit Technology)
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 図1に、NANDフラッシュメモリーのメーカー別売上高の四半期ごとの推移を示した。韓国Samsung Electronics社が東芝やWDなどの競合から抜きん出た実績を挙げており、特に2016年7~9月期以降は他社との差を広げていることが分かる。東芝やWDも売上高を伸ばしてはいるものの、生産能力やプロセス技術開発で先頭をゆくSamsung社の背中は遠のきつつある。

 Samsung社は2017年1~3月期に9兆8000億ウォン(約9650億円)を投資し、うち5兆ウォンを半導体に注ぎ込んだ。東芝も厳しい財政状況の中、メモリ事業には年間2000億円を超える設備投資を行っている。それでも四半期に約5000億円を半導体に投じるトップ企業と戦わなくてはならない現実を前にすれば、パートナー企業との協業は欠かせない。WDを相手に争っている場合ではないはずだ。

 債務超過に陥ったバランスシートを立て直し、上場廃止を避けたい東芝にとって、NANDフラッシュメモリーの需要が急増している現状は、本来は願ってもない好機のはずである。この状況下でWDとの争いに時間を費やしていることがどれほどのマイナスか、東芝の経営陣は十分に認識しているはずである。外部からは推し量れない内情もあるだろうが、第3者の立場から見て、東芝が取り得ると考えられる方策を以下では整理してみたい。