富士通は2017年5月23日、ジャスダック上場の電子部品商社であるソレキアに対するTOBが不成立になったと発表した。ソレキアは1958年の創設以来、富士通グループの系列商社として事業を行ってきたが、個人投資家の佐々木ベジ氏が2017年2月からソレキアへのTOB(株式公開買い付け)を開始しており、「大株主の立場でソレキアの業績を立て直したい」と主張していた。富士通はこの動きに対抗すべく、同社を完全子会社化することを画策したが、これを実現できなかったことになる。

 この一連の動きは、日系半導体商社の置かれた状況の一面を示すもので、筆者が本欄で何度か主張してきた内容にも関連する。以下では今回の事案について分析したい。

 ソレキアは長らく「小林電子産業」という社名で、富士通製の電子機器や電子デバイスを取り扱ってきた。売上高は年間約200億円で、時価総額20億円前後の小ぶりな商社だが、1990年に株式を店頭登録(現在のジャスダック市場)している。

 富士通は同社の大株主ではないが、同社取り扱い商品の40%近くが富士通製で、売り先の約20%が富士通エフサス(FSAS)という構成。同社役員には多くの富士通出身者が名を連ねており、実質的に「富士通の系列商社」と言って差し支えないだろう。従来の同社の株価には長い間、目立った動きがなく、10年以上にもわたり2000円前後で推移していた。

 そんな商社に対して、個人投資家の佐々木氏が2月3日、1株2800円で発行済み株式の35.9%に当たる36万4700株を上限に、TOBを開始すると発表したのである。これに対して富士通が同社を1株3500円で完全子会社化するという対抗策を打ち出し、TOB合戦が始まった。両者のTOB価格はその後どんどん上乗せされ、ソレキアの株価は業績とは関係ない形で6000円を超える水準に達した。

 富士通は結局、ソレキア株の買値を5000円よりも引き上げることはせず、買値を5450円まで引き上げた佐々木氏によるTOBを阻止できなかった。「大企業が個人投資家に競り負けた」などという報道も一部にあったが、そもそも富士通がこの競り合いに首を突っ込む必然性があったのか、仮に競り勝ってしまった場合、その必然性を株主や投資家にどう説明するつもりだったのか。最終的には富士通もこの点を配慮したのではないか。今回のTOBは、上場している系列商社が抱える問題を露呈することになった。

 一方の佐々木氏は「ソレキア取締役会には富士通から役員が送られ、富士通に取り込まれてしまっている」「社員自ら市場を切り開くという意識が弱まっている、自立した気持ちを持てば変われる」と主張しており、ソレキアを名実ともに富士通から独立させることを目指しているようだ。TOBを仕掛ければ、ソレキアが富士通に助けを求めることを同氏が想定していたとしても不思議はない。むしろ、こうした富士通への依存体質を断ち切ることこそが同社の自立に必要だと判断しているのであれば、このTOB合戦をとことん戦い続ける覚悟もあったことだろう。今後佐々木氏がソレキアをどのように立て直していくのかに注目したい。