2017年以降の大型フラットパネルディスプレー(FPD)の需給や業界動向にとって大きな変数となりそうなのが、鴻海グループの事業戦略だ。同社グループはシャープを傘下に収めて以降、積極的な事業拡大戦略に打って出ようとしている。

 まずは大型パネルやテレビ事業の拡張に着手しており、これは2017年前半の大型パネル需給のひっ迫要因になると考えられる。しかし、同年後半の需給悪化リスクについても併せて念頭に置く必要があるだろう。

 鴻海グループの戦略や舵取りは大型・中小型ディスプレー、テレビやスマートフォンなどの業界動向に大きな影響を与える可能性が高いと考えており、注目を続けたい。今後出てくると考えられる具体的な動きとして、以下の3点が考えられる。

EMS専業から一歩踏み出す

 まず、大型パネルを生産するSDP(G10:40/45/60/70/80型を生産)、亀山第2工場(G8:45/55/80/90型)においては、2017年に800万~850万枚のテレビ用パネル生産が想定される。

 これまでは最大顧客の韓国Samsung Electronics社(VD部門)に生産能力の約半分の400万枚程度を供給してきた。しかし、2017年はVDへの供給を絞り、シャープ向けおよび鴻海グループ側の顧客(VIZIO社やLeEco社など)、およびその他の中国ブランドへの拡販を進めるもようである。シャープ向けでは、Innolux社側でモジュール組立、シャープ南京工場でテレビ組立というような流れが考えられる。日本や中国、欧州(ライセンス供与先と協業)で積極拡販を行い、2017年度(2018年3月期)は600万枚程度の販売を計画すると考えられる(みずほ証券予想は2016年度が460万枚、2017年度は510万枚)。

 VIZIO社は北米、LeEco社は中国中心の展開で、パネル供給を拡大することで、鴻海グループのODM一貫受注(テレビ設計、およびパネルから完成品組立まで)を狙っていると考えるのが自然だ。LeEco社はVIZIO社を20億米ドルで買収することで合意していたが、現在は資金繰りに窮している。

 鴻海グループは2016年に80万台程度のODM供給を行っており(LeEco社の総数の2割弱)、相応額の売上債権を抱えているとみられる。しかしこれを好機と捉え、LeEco社に何らかの形で支援を行うことで、LeEco社やVIZIO社のテレビハードウエア事業への影響力を得ようとする可能性も否定できない。

 つまり、シャープやVIZIO社、LeEco社などを通じて「疑似グローバルブランド」を形成し、これまでのEMS専業から一歩を踏み出す可能性だ。携帯電話機についてもNokiaやInfocusブランドを取得しており、同様の動きが考えられる。

 シャープにとっては、テレビ拡販による収益拡大は限定的と考えられるものの、パネル工場を安定的に高稼働にすることによる限界利益改善の効果は大きい。同社は今後、有機ELパネル投資により減価償却費や研究開発費が増加するため、既存工場の稼働率上昇、増収による利益増という画を描く必要がある、という事情も背景にありそうだ。