日本経済新聞は2017年10月4日、JOLEDの工場投資およびジャパンディスプレイ(JDI)の再建計画について報じた。報道された内容は以下の通りである。

 まずJOLEDの工場投資については、ソニーやキヤノン、富士フイルム、ニコン、住友化学など、完成品や部材、装置などを手掛ける国内数十社に対して出資を打診し、1000億円を調達するという。これを原資に印刷方式の有機ELパネルの量産工場に投資し、2019年に量産を開始する計画。量産にはJDIの能美工場を活用する。JOLEDには産業革新機構が75%、JDIが15%、ソニーとパナソニックが5%ずつを出資している。

 JDIの再建については、提携先企業の選定を開始したという。スマートフォン向けに蒸着方式の有機ELパネルを2019年に量産することを目指し、工場投資のための資金2000億円超の供出を提携先候補企業に要請する。JDIが持つ国内工場に新たに投資し、提携先には技術供与の形で還元する。

 以下では、これらの報道に関する筆者の見解を述べたい。まずはJOLEDの工場投資について。

インクジェット方式はモバイル向けにはまだ厳しい

 JOLEDは現在、JDI石川工場に第4.5世代(730mm×920mm)の印刷方式テストラインを保有している。生産能力は3000枚/月程度。テストラインながら、既にソニーの医療用モニター向けに21.6型4Kパネルの少量量産を開始することが決まっている。

 JOLEDが目指しているのは、複数社に対するライセンスビジネスである。印刷(インクジェット)方式の有機ELパネルの生産ノウハウ、インクジェット装置、主要材料を併せて供給し、技術移転料および生産量や額に応じたライセンス料を徴収する方式だと見ている。

 パネルメーカーに出資を求めないのは、現時点では特定のパネルメーカーと提携関係を結びたくないとの考えが背景にあるようだ。最先端技術の開発と中型・大型パネルの少量量産に特化し、主に技術収入で収益を上げていく構図を描いていると見られる。

 インクジェット方式の有機ELパネルに使われる発光材料は、基本的に高分子材料である。韓国Samsung Display社などが蒸着方式に使っている低分子材料とは組成が異なる。インクジェット方式の場合には、ノズルの設計や制御、材料そのものなどにさまざまな技術課題がある。現時点では寿命や解像度などの限界から、500ppi以上が必要とされるスマートフォンなどのモバイル用途には適さない。むしろ大型テレビ向けの方が解像度が低くてよく、インクジェット方式には適している。例えば65型4Kパネルの解像度は68ppiにすぎない。

 ところが、JOLEDの第4.5世代工場では基板サイズや製造装置の制約などから大型パネルの生産が難しい。そのため、JDIの能美D2工場(第5.5世代、基板サイズ13000㎜×1500㎜)のリソースを活用することが想定される。第5.5世代対応の有機ELパネル製造装置を導入し、55型級のテレビ用パネルの試作や少量量産を行う計画だと考えられる。この際、LTPSのままとするかOxideに転換するかは現時点では不明である。

 そもそも、JOLEDの技術に興味を示す可能性が高いパネルメーカーは、シャープや韓国LG Display社、中国BOE社、中国CSOT社、中国CEC Panda社など、すべてテレビ向けパネルを中心に手掛ける企業。JOLEDが上記のライセンスビジネスを実現させるためには、まずは大型テレビ用パネルを生産できることを実証する必要があるだろう。

 第5.5世代では、1万枚/月以下といった小規模ラインでも最低600億~700億円程度の投資が必要と考えられる。装置や部材のメーカーが出資に応じるかどうかは、JOLEDの技術力やビジネスモデル、将来の有機ELパネル関連部材と装置の需要をどう評価するかにかかっている。1000億円の資金が集まるかどうかは、現時点では不透明である。