韓国LG Display社は2017年7月25日、同年4~6月期決算と併せて有機ELパネル生産ラインへの設備投資計画を発表した。主な内容は以下の通りである。

 第1に、第10.5世代の有機ELパネル生産ライン「P10」(Paju)に2.8兆ウォンを投資する。ガラス基板寸法は2940mm×3370mmで、生産能力は3万枚/月。まずは第10.5世代基板でのバックプレーン(Oxide)の量産技術確立を目的に、液晶パネルを生産予定である。

 第2に、第6世代のプラスチック(Flexible)有機ELパネル生産ライン「E6」(Paju)へ5兆ウォンを追加投資する。ガラス基板寸法は1500mm×1850mmで、生産能力は3万枚/月。2019年中に、フェーズごとに順次稼働を開始する。

 第3に、中国・広州(Guangzhou)における第8.5世代の有機EL生産ラインに新規投資する。ガラス基板寸法は2200mm×2500mmで、生産能力は6万枚/月。2019年上期に稼働を開始する。投資はジョイントベンチャーの形を採り、LG Display社の出資比率は70%。投資額は2.6兆ウォンの70%に当たる1.8兆ウォンで、インフラなどについては既存の液晶パネル工場も活用する。

まずは中国G8工場への投資を先行か

 LG Display社の2017年のテレビ用有機ELパネルの生産数量は170万~180万枚程度とみられ、液晶を含む全テレビ用パネルの生産数量2億5000万~2億6000万枚の1%にも満たない。有機ELテレビの普及を目的に、同社が不採算の状態でも戦略的にテレビメーカーにパネルを供給している側面はあるものの、小売価格2000米ドル以上のプレミアム市場で有機ELテレビはシェアを上昇させている。

 2017年からはソニーなども加わり、有機ELテレビを手掛けるブランドに厚みが出たこともあり、有機ELには追い風の状況となっている。そうした中、LG Display社の有機ELパネル生産能力は第8世代工場(Paju)で6万枚/月(基板当たり55型×6xもしくは65型×3x)。2019年以降の増産余地は限られる状況となっており、能力増強投資が必要な状態だった。

 本来、同社は韓国PajuのP10で第10.5世代の有機ELパネル工場に投資する計画だったと見ている。しかし、この投資にはいくつかのハードルがある。Oxide基板の生産の難しさや、コスト削減の肝となるインクジェット製法が未確立なこと、などである。

 そのため、第10.5世代への投資は、BOEやCSOTなど先行して投資している競合他社への対抗措置を含めて、マスク枚数がOxideの半分以下の4枚で済むアモルファスSi液晶パネルに投資する可能性が高いと見ている。すなわち、第10.5世代の有機ELパネル工場投資はいったん先送りにし、まずは広州工場で第8世代の有機ELパネルへの投資を行う公算が大きい。その上で、インクジェット製法のパネル生産にめどが立ち次第、Pajuで第10.5世代の有機ELパネルへの投資を行う可能性が高いと見る。

 過去数年間の営業キャッシュフローが50億米ドルに満たないLG Display社にとって、大型有機ELパネル工場と中小型有機ELパネル工場への同時投資は、非常に大きなリスクを伴う戦略だ。そのため、出資額の3割を中国の協業先に託すメリットは大きい。投資負担を軽減できることに加え、需要先の確保や中国市場における有機ELテレビの普及加速につながり、中央・地方政府からの有形無形の支援なども受けられる。

 なお、6万枚/月の生産能力では、歩留まりにもよるものの年間で65型パネルを170万~200万枚程度生産できる。ただし、基板の利用効率が低いため、基板の余ったスペースを55型など他のサイズの生産に活用することなどにより、増産の余地が出てくる。