筆者は、鴻海グループとシャープは中国に2拠点、米国に1拠点、インドに1拠点、合計4つの第10.5(G10.5)世代パネル工場への投資を計画していると見ている。生産能力はそれぞれ9万~12万枚/月、1案件あたり1兆円を超える投資になると見る。

 既に中国広州では、現地政府と第10.5世代工場への投資について合意していることを発表。米国に関しては、2017年2月10日付の日本経済新聞電子版などがペンシルバニア州に建設を検討していると伝えている。需要見通しなどさまざまな要素を加味すると、広州の1工場は実際に建設される可能性が高いと筆者は見ているものの、その他の3工場に関しては現時点では不確定要素が多いだろう。理由は以下の通りである。

 まずは条件面。中国の場合は現地政府がプロジェクトそのものに投資し、融資もあっせんしてもらえるため、自己負担分が少ない。しかし米国では、土地やインフラ、税金などで優遇措置が採られたとしても、政府自体がプロジェクトに出資する可能性は大きいとは思えない。

 また、第10.5世代工場は主要な製造装置を現地で組み立てる必要があり、装置メーカーは新たに現地に投資をし、拠点を整備しなければならない。ペンシルバニア州は海に面しておらず、もし工場建設地が海から遠い内陸部となった場合には、運搬面などで問題を生じる可能性がある。そのため、中国で投資する場合に比べて、装置コストが上昇する可能性が高い。

 部材も同様だ。ガラス基板については、米国にCorning社があるため、条件面さえ折り合えば工場内に生産能力投資をしてもらえると見られるが、その他の部材はアジアからの輸入に頼らざるを得ず、割高になる。従って、米国政府が液晶テレビや液晶パネルなどの輸入に対しかなり高率の関税をかけない限り、米国内で液晶パネルや液晶テレビ工場投資を行うメリットは大きくない。

 また、液晶ディスプレーの組み立てや検査工程、テレビ組み立て工程を導入する場合、コストの観点から、中国のようにオペレーターに頼るわけにもいかず、自動化投資などが必要となる。仮にオペレーターを雇うことができても、必要な人数をそろえられるのか、中国の工場で働いている水準のオペレーターをどれほど確保できるのか、といった疑問もある。