イノベーションを安易に求めてはいけない

――裏を返せば、擦り合わせが過剰だからこそ、変えてはいけないところまで変えてしまい、結果的に固定費が膨れ上がるのかもしれません。

北山 確かに、そういう面はあります。例えば、日本のメーカーのスマートフォンは、画面サイズの種類が非常に多いのですが、それも同じ問題だと思います。なぜそのようなことになってしまうのか、あるメーカーの技術者に聞いたところ、そのときに最安値で調達できるものを採用するので、種類がどんどん増えてしまうということでした。結局、変動費のことしか考えていないわけです。調達コストはいくらか削減できるかもしれませんが、製造現場では新しい画面サイズに対応するために工程を変更するなど固定費が増えている。だけど、そこは設計者には見えていないのです。

 固定費については、そもそも理解が十分ではないとか、会計制度のせいで見えなくなっているとか、さまざまな問題が複雑に絡み合っています。だから、分かりやすい変動費の削減に走ってしまうわけです。ところが、変動費を減らしたらそれ以上に固定費が増えていたというケースも少なくありません。こうして、もうからない体質になっていくのです。

――変動費を減らせばいいというものではないと。

北山 最近はイノベーション志向で新しい技術や材料を安易に採用する傾向を感じますが、これも固定費の負担を重くします。本来は、あえて制約を設け、変えていい部分と変えない部分を決めておかなければなりません。そうすることで、初めて固定費を“管理”できるのです。Apple社も、「iPhone」の初代機から「4s」までは画面サイズを全く変えませんでした(関連記事「『iPhone』がもうかる本当の理由」)。その代わり、ユーザーインターフェースなど他の部分で勝負するわけです。

 繰り返しになりますが、新しいことをやるのは重要です。しかし、それによって固定費にどういうデメリットがあるのかということも見えるようにしておかないと、もうからない体質になってしまうのです。