『イノベーションの法則性』(中央経済社)
イノベーションの法則性』(中央経済社)
 以前の成功体験が邪魔をして、圧倒的な地位を築いていた勝者が環境変化に対応できず没落する――。古今東西よく聞く話であり、イノベーションを継続的に起こすことの難しさを物語っている。

 成功体験に溺れることなく、環境変化に対応し続けるには、どうすればいいのか。ある意味での「イノベーションの本質」を分析したのが、かつてファナックに在籍し、現在は東北大学大学院経済学研究科の教授として「イノベーション論」を担当する柴田友厚氏の新著『イノベーションの法則性』(中央経済社)だ。同氏は、長い時間軸でイノベーションを分析することの重要性を強調し、性格の異なる2つの組織を使い分ける「二刀流組織」を提唱する。(聞き手は、高野 敦)

――『イノベーションの法則性』とは、非常に大胆なタイトルですね。

柴田友厚(しばた・ともあつ)氏
柴田友厚(しばた・ともあつ)氏
1959年札幌市生まれ。1983年京都大学理学部卒業後、ファナック、笹川平和財団、香川大学教授を経て、2011年4月から東北大学大学院経済学研究科教授。「イノベーション論」担当。主要著作に『製品アーキテクチャの進化論』(白桃書房、2002年)、『日本企業のすり合わせ能力』(NTT出版、2012年)など。国内外の学術ジャーナルへの論文掲載多数。
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柴田 私の個人的な問題意識として、成功や失敗にはさまざまな産業に共通するパターンが存在するのではないかということがあります。クリステンセン(Clayton Christensen氏、米Harvard Business School教授)も、「破壊的イノベーション」「持続的イノベーション」という形でイノベーションを類型化して、優良企業が失敗する共通パターンを導き出しましたよね。そのようなアプローチに触発されて、私も何らかの法則性を導き出したいと考えました。

 他に心掛けたのは、成功事例にせよ失敗事例にせよ、長期的な視点で見るということです。例えば、シャープは今でこそ液晶パネルの“一本足打法”だったから不振に陥ったといわれていますが、少し前までは「選択と集中」の成功事例として取り上げられていました。昔は良かったけど、今は業績が悪いから失敗というのは、評価する側も軸足がぶれているのではないかと思うわけです。実際のところ、シャープが液晶パネルに特化したのは成功だったのか失敗だったのか。それを考えるには、やはり長期的な視点で物事を見なければなりません。

 直近の業績が良い企業の事例を見て、それが長期的にも通用すると安易に考えてしまう傾向があるように思います。しかし、それは市場のニーズや技術のトレンドなど外部環境に合っていたからであって、状況が変わっても成功し続ける保証はありません。我々は、今の成功事例が今後もずっと有効であるとどうしても考えがちなので、その“落とし穴”を回避するような議論がしたかったのです。