1万2000人を超える技術者に聞いた結果、日本の製造業は、ここにきてマーケティング領域の強化に力を入れ始めているのだそうです。掛け声は、「ものづくり」だけではなく、「ことづくり」にも、です。

 日経テクノロジーオンラインのテーマサイト「技術経営」で、2015年9月のアクセスランキング2位に入った記事「1万2000人超の技術者への調査から見えた開発現場の現状」。筆者であるiTiDコンサルティングの榎本将則さんは、そう結論付けています。

説明に窮するキーワード

 「ことづくり」の重要性が語られるようになったのは、それこそひと昔もふた昔も前のことと記憶しています。例えば、日経テクノロジーオンラインの記事検索で記録に残っている古い記事は2006年2月の「トヨタが強いもう一つの理由――『日本コトづくり経営』を読んで」。日経ものづくりで出版した書籍の書名(『日本コトづくり経営』)になっているほどですから、10年前には既に当たり前の言葉だったということでしょう。

 表現者としては安易な言葉の選択を自ら戒めなければならないわけですが、「ことづくり」という言葉は便利なのでついつい使ってしまいがちなのです。「日本企業は開発力や生産技術は強みだけれど、マーケティングやサービス開発、エコシステムの構築は苦手」という、よくある構図の説明で。でも、実は対になる「ものづくり」と同じように、「ことづくり」は意味の説明を求められると窮してしまうキーワードです。

 ついつい記事中に「ことづくり」という言葉を使って、記事を査読する強面の鬼デスクに「お前、ここで書いている『ことづくり』ってどういう意味だ。言ってみろ」なんてすごまれたら、若い記者は脂汗とともに震え上がってしまうでしょう。