今、エネルギー業界で、とりわけ熱い視線を集める技術は何か。今回の記事ランキングを眺めれば、事情に疎い筆者にも一目瞭然である。電力を貯める技術、すなわち蓄電池に関する話題がずらりと並んでいるのだ。

 1位は、陽光あふれる隠岐諸島で発電した有り余る電力を、系統とうまく連係させるために大容量のハイブリッド蓄電池を導入した件。2位は、電力自由化で先行する国々で、値段を抑えた蓄電池を家庭に販売して、太陽光発電で得た電力を自家消費するよう促している件。3位、4位と続いた斜面に立ち並ぶソーラーパネルの威容を眺めつつ5位の記事をクリックすれば、太陽光の電力でコミュニティバスを走らせるために蓄電池が不可欠だった件と来る。いずれも貯める技術が、来るべきエネルギーの新時代を支える大黒柱といわんばかりだ。

 だからこそ本稿では、あえて逆張りの説を提唱したい。なぜかと問われれば、記者とはそういう職業だからと答えるしかない。同僚と話していて図らずも意見が一致するのが、家人との喧嘩のよくある理由である。相手の意見に心底同意したふりをしないまでも、せめて受け流しておけばいいものを、反射的に反論してしまうのだ。取材先の主張をまずは疑ってかかれと、叩き込まれた記者根性のなせる技である。

 では、本当に貯める技術はそれほど大切なのか。他の分野に置き換えてみるとわかりやすい。筆者は長い間、HDDやフラッシュメモリーといった、情報の記憶装置の記事を書いてきた。情報を貯める技術が凄まじい勢いで進化し、今では個人で何Tバイトものデータを格安で保存可能になったことはご存知の通りだ。

 その結果、何が起こったか。データを貯めることの目的化である。眼前に広がる風光明媚な景色を、自分の目の代わりにデジカメで余すところなく収めようとする観光客の姿は、すっかりお馴染みになった。メモリーカードに、いくらでも画像を記録できるようになったせいだ。テレビにつながったHDDに、見もしない番組が山ほど録画されている家庭も多いはずだ。Tバイト級のHDDが手軽に買えるためだ。大流行のIoTも同じではないか。膨大なセンサーから溢れ出すビッグデータとは、安価で大容量のストレージ装置を使うための方便で、その実、溜め込むデータのほとんどは利用価値のないゴミだったりしないのか。

 エネルギー産業に話を戻そう。企業や家庭に安価な蓄電池が普及したとしよう。ムーアの法則とは言わないまでも、値段当たりの容量は着実に伸びるだろう。そうすると人々はより大容量の蓄電池を購入して、もっとエネルギーを貯めたくなる。不測の事態を想定したら、貯められるだけ貯めておくことが合理的な選択だからだ。その結果、普通に消費する分に加えて、蓄電池を充電する分のエネルギーがどんどん必要になる。エネルギー需要は伸び続け、必ずしも必要とは言えない発電施設が建設され、地球環境への負荷はむしろ高まってしまうのではないか。

 だからこそ貯めない技術の重要性を主張したい。筆者の見解には日本銀行も賛同している。先日、日銀が導入したマイナス金利は、民間の銀行が貯め込んだ資金を、貸し出しや投資に回すよう促す施策である。筆者が財布の紐を緩めたままにしているのも、同じ精神から発した高邁な所作なのである。

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