「第44回東京モーターショー2015」(2015年10月29日~11月8日)では、日経テクノロジーオンラインも数多くの記者が取材しました。大手どころはみんながカバーするだろう、と思って私は解析技術と接合技術あたりを目当てに、会場の隅の方を歩きました。その成果の1つが、八千代工業のエンジンタンクの解析技術。ロータリーエンジン搭載のコンセプトカーで沸くマツダブースの筋向いで、お話を伺いました。
異種材料接合技術に関しても、一つ見つけました。TPRは、頭部がやや膨らんだ突起(キノコ状のイボイボ)を表面に多数有する鋳造品を、ブレーキドラムのしゅう動面と本体との異種材料接合に提案できるとして出展しました(図1、2)。鋳鉄製の円筒形部品の内側は平滑にしてブレーキシューが当たるしゅう動面とし、外側には多数の突起(イボイボ)を設けます。この部品の外側をアルミニウム合金のダイカストで囲む(鋳ぐるむ)と、アルミ合金がイボイボの周囲で固まり、抜けなくなります。こうすることで、ブレーキドラム全体を鋳鉄製にするよりも、大幅に軽量化ができるわけです。
鋳鉄製の円筒形部品は、遠心鋳造法で作製します。遠心鋳造法は鋳型も円筒形をしていて、回転させた状態で内側に溶湯を流して、遠心力で溶湯を鋳型に張り付かせて固める方法です。その鋳型の内面に穴が多数開いたライナーを張っておくと、溶湯がその穴に入り込むことによって、鋳造品の外側にイボイボの突起ができます(図3)。実は、この仕組みは既に実績があります。鋳鉄のシリンダライナーをアルミ合金のシリンダブロックに固定するのに利用しているそうです。
このイボイボの突起は、高さが0.7mmと結構大きなものです。ブースの方に一通り説明していただいたあと、
「実は、異種材料接合の記事とかセミナーを担当することが多くてですね。最近、金属表面にレーザーや薬品で数μm~数十μmの凹凸をつけて、異種金属や樹脂と接合しようという話題があるんです」
と申し上げると、
「突起の大きさは全然違いますけど、考え方は同じですね」
と言っていただきました。
このイボイボの鋳肌にアルミ合金をダイカストで接合した試験片を引っ張ると、接合強度は15~30MPaになるそうです。通常の鋳肌の場合にはせいぜい5MPaにしかならないそうです。熱伝導率も25~35W/m・Kと、通常の5W/m・Kに比べて高くなります。
遠心鋳造法によるイボイボ付きの部品は鋳鉄、鋳鋼の他、アルミ合金、銅合金でも作製可能とのこと。サイズは直径20mmから200mmまでです。それよりも融点の低い金属で鋳ぐるむことで、異種金属同士の接合ができるようです。
掲載時、「シリンダブロック」とすべきところを「シリンダヘッド」としていました。お詫びして訂正します。現在は修正済みです。