3Dプリンターによって造れるのはあくまで機械部品の一部であって、製品には電子部品もソフトもあるから、3Dプリンターがどうして2012年ごろにブームになったのか、当時は正直なところよく分かりませんでした。今でも、3Dプリンターでは部品しか造れない、と思っているのは変わりません。

 ただ、造られる部品の方は、これまでと同じ形状や構造である必要は全くありません。ジェネラティブ・デザインやコンピューテッド・デザインと呼ばれる、コンピューターによって所要の条件から形状を生成する方法では、生物の骨格に見られるような有機的な形状を造ることがあります。これまで、機械製品の製造工程ではまっすぐな棒や板を使うのが普通でしたが、3Dプリンターであれば「ぐにゃぐにゃ」した形状でも問題なく造れます。その結果、強度を保ったまま大きく軽量化を図ることも可能になりました。

 クルマの車体を3Dプリンターで造るメリットも、今までと全く異なった構造にできることが挙げられます。そうでなくても、デザインを決めてから造形するまでの時間が極めて短くて済む、というメリットはあります。でも、今まで通りの金属の車体の代わりに3Dプリンターの造形物を使う、というだけではあまり面白くありません。

米Local Motors社の3Dプリンテッド・カー「Strati」
米Local Motors社の3Dプリンテッド・カー「Strati」
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 米Local Motors社が全3Dプリンター製の車体を持つ電気自動車「Strati」を開発した当時、その造形を実施した場所(テネシー州にあるOak Ridge National Laboratoryの構内)に取材に伺いました。そのときに、担当技術者のJames Earle氏が指摘していたのが、衝突時の衝撃吸収構造を一体部品として造り込めることです。「現在のクルマでは、(前面衝突とかオフセット衝突とか)衝突の形態を想定した上で補強用の部品を入れている。3Dプリンターであれば、クルマ表面全体に衝撃吸収構造を持たせることができて、あらゆる方向からの衝撃に備えられる」(同氏)。