中国・湖北省荊州市のショッピングセンターでエスカレーターが陥没して母親が巻き込まれて死亡した事故。中国・天津市の化学薬品保管倉庫で発生した大規模な爆発。日本の川崎市で起きた、新日鉄住金鋼管の川崎製造所の倉庫火災…。パッと思いつくままにここ1カ月くらいで発生した事故を挙げてみましたが、最近何やら多いように感じています。ここに挙げた3件のうち2件がそうであるように、確かに中国の事故も目立ちますが、日本でも増えているというデータがあります。

 それは、厚生労働省がまとめている労働災害です。2014年の発生状況をみると、死傷者数(休業4日以上)は11万9535人で前年同期比1378人増、死亡者数は1057人で同27人増、重大災害は292件で48件増。実は、死傷者数も重大災害も2009年から2012年にかけて増加傾向にありました。翌2013年にいったん減少したものの、ここに紹介したように2014年には再び増加に転じています。

 こうした労働災害が増えている背景としては、ベテラン技術者の退職や技術伝承の怠り、設備の経年劣化などが指摘されています。そして底流には、経営者が安全に対する投資に対して消極的であるという実態があります。安全は「何も起こらない状態」を指しているので、仮に不安全な状態でも何も起こらなければ安全だと錯覚します。とりわけ経営者は、「当社では何も起きていないのだから、既に安全は確保されている」と思い込んだ上に、安全は「何も起こらないこと」、すなわち「何も生み出さないこと」と捉えているため、安全に対する投資は「もうこれ以上できない」と惜しむのです。

 その一方で、機械や設備がますます高度化し、複雑化してくると、特に想定外の事故が起きる確率が高まってきます。そしてひとたび、重篤度が高く社会的影響度が大きい事故が発生すると、会社自体が存亡の危機にさらされます。社会全体で事故が増加傾向にある今こそ、自社の安全対策をもう一度点検し、不足があればお金をかけてでもきちんと実施していく必要があります。