アドバンテストの収益性が低く、米Teradyne社の収益性は高い。日米の大手ICテスターメーカーを比べて、同業なのになぜ収益力にこれほど違いがあるのか。2016年3月11日、「SEMICON Japan 2016」(2016年12月14~16日、東京ビッグサイト)の開催概要説明会に招かれた著名アナリストの和田木哲哉氏(野村証券)が、「双極化する世界」と題する講演で面白い見方を示していました。

 「アドバンテストの製品は高品質・高性能で高価だが壊れない。Teradyne社の製品は安価で故障しやすいものの保守サービスでカバーしている。サービス収入まで含めると、結果としてTeradyne社の収益性が高くなっている」といいます。意外にもアドバンテストにおける顧客のための高品質化は、同社の収益面にはプラスに寄与していない恐れがあると示唆されます。なお同氏の講演の趣旨は、IoTの普及によって、まさに今から半導体・半導体製造装置業界が新たな成長期に入るという興味深い内容でした。

 別の方からはこんな話を聞きました。ここ数年、大手スマートフォンメーカーの多くが、商品力を決めるカメラ機能などに注力する中、国内メーカーの多くはカメラなどに注力し切れなかった、と。独自のアプリケーションソフトウエアやNFC(近距離無線通信)などに開発リソースを分散させていたと言います。おそらく顧客から多様な要望があることを開発者はつかんで、多くの機能を盛り込んだのでしょう。ただし、本当に勝負すべき機能を開発すべきときには、カネがないのでできなかったメーカーもあったとのこと。スマートフォン向けソフトウエア技術に強みをもつベンチャー企業の経営者の話です。スマートフォン市場で国内メーカーが惨敗した一因を表していそうです。

 これら2つの業界で国内メーカーは、顧客の要望に耳を傾けた結果、それぞれの選択をしたはずです。顧客志向を貫こうとした結果、新しい手法や技術を持つ新興企業に打ち負かされる例は、イノベーションのジレンマとして知られるところです。スマートフォン業界の例では、市場で勝った側のメーカーは、顧客の要望と自らの収益性のバランスをとることに成功したはずです。顧客が喜ぶ選択をしてもメーカーが市場からの撤退を余儀なくされれば、最終的に顧客は迷惑を被ります。結局のところ、勝った側のメーカーは顧客志向だったと言えます。