よく来たな――。2016年10月3日に都内で行われた「CEATEC JAPAN 2016 オープニングレセプション」に内閣総理大臣の安倍晋三氏が登壇した際に、取材中の筆者の隣にいたエレクトロニクスメーカーの方が、ボソッと漏らした言葉である。筆者は30年以上エレクトロニクス業界を取材させてもらっているが、首相がやってきた業界イベントは、これが初めてではないだろうか。

 当たり前だが、忙しい安倍首相がわざわざやってくるのには理由があった。ドイツ・ハノーバーで2017年3月20日~25日に開催される、IoTやデジタル化をテーマにしたB to Bの展示会「CeBIT 2017」への参加を、エレクトロニクス業界の関係者に呼び掛けるためだ(関連記事「安倍首相、CeBIT 2017への参加をエレキ業界に要請」)。CeBIT 2017で日本は、カントリーパートナーというメインの出展国を務める。カントリーパートナになることは、2016年5月の日独首脳会談の際に、ドイツのメルケル首相から安倍首相に直接依頼された。

 CEATEC JAPAN 2016 オープニングレセプションに安倍首相に続いて登壇した経済産業大臣の世耕弘成氏によれば、安倍首相がその場で依頼を受けたことは「想定外」だった。「官僚が作った想定問答集では、『持ち帰って検討する』が回答だった」(世耕氏)。想定問答集を作った官僚は慌てただろうが、官僚に続いて「想定外」の事態に慌てたのがエレクトロニクス業界の大手メーカーである。強制ではないろうが、自由民主党総裁の任期延長(3期9年)が確実視されていた安倍首相が自ら要請したとなると、対応せざるを得ないだろう。

 大手企業は国内の業界イベントでは「業界のため」という御旗の下で出展することは少なくない。持ち回りの幹事企業になると、数年振りに出展などということも、ままある。しかし、政府、しかも首相による公の場での直接要請によって出展する展示会は、初めてだろう。実際、CEATEC JAPAN 2016 オープニングレセプションの後で、別件の取材で大手エレクトロニクスメーカーを訪れると、さまざまな方から「表立っては言えないですが、どうしようかと困惑しています」と言われた。

 そうした方から、よく聞かれる質問が「CeBITってどんな展示会なんですか」である。実は、筆者はCeBITを取材したことはない。その昔に参加した方に聞くと「日本のデータショウみたいな展示会」という答えが多い。でもデータショウは1990年代後半に終了している。筆者にしても、遠い記憶の彼方だ。