米大統領選でドナルド・トランプ氏が当選した。どのような経済政策をとるかが不透明だとして、同氏の当選が濃厚になった2016年11月9日は東京株式市場も919円下げたが、翌10日は1092円高、米ドル相場も100~106円台の間を乱高下とジェットコースターのような相場になっている。世界中がまさに様子見といった感じだが、それでも、EMS(電子機器受託製造サービス)やODM(Original Design Manufacturer)の大手とそのサプライチェーンが集積する台湾では、トランプ氏の当選がEMSをはじめとする台湾のエレクトロニクス産業に及ぼす影響や懸念を指摘する分析が出始めている。本格的な影響が表面化するまでにはある程度の時間がかかるだろうが、今回は選挙後第一報として、2016年11月11日までに出ている分析のいくつかを紹介したい。

 台湾の総合誌『天下雑誌』は同月10日付で、主筆の陳良榕氏による「トランプは製造業を米国に戻したがっている 台湾で苦しむのは誰だ?」と題するコラムを掲載した。この中で陳氏は、トランプ氏が選挙戦中の演説で、米Apple社はスマートフォン「iPhone」の製造を中国から引き揚げ米国へ戻すべきだと発言したことを取り上げた上で、2015年に製造された約2億2700万台のiPhoneの全量が中国で製造されたこと、製造を手がけたのは台湾Hon Hai Precision Industry社〔鴻海精密工業、通称:Foxconn(フォックスコン)〕と台湾Pegatron社(和碩)の中国工場であること、万が一Apple社がiPhone製造の一部、あるいは全部を米国でやるようフォックスコンとPegatron社に要請したら、中国の雇用と国内総生産(GDP)に与える影響は決して小さなものではないことなどを指摘。当選したトランプ氏は言行不一致で有名であり、いまのところ、iPhoneの製造が米国に移る動きや兆候は認められないが、トランプ氏が実は本気であり、アッセンブリの他に部品の製造も米国でやることになれば、台湾にとってはまさに悪夢であり、輸出で生きている台湾の前途に赤信号が点る恐れが高くなるだろうとした。まさに、事態の行方を固唾をのんで見守る、といった風情だ。