間もなく9月。EMS(電子機器受託製造サービス)業界の9月と言えば、最大手の台湾Hon Hai Precision Industry社〔鴻海精密工業、通称:Foxconn(フォックスコン)〕と台湾Pegatron社(和碩)がアッセンブリを手がける米Apple社のスマートフォン「iPhone」の新モデルの発表・発売の話題で持ちきりになるのがここ数年の恒例になっている。フォックスコン、Pegatron社のお膝元である台湾メディアでも、この2社や部材供給業者に関するものが増えるのだが、iPhoneのアッセンブリを長らく独占してきたフォックスコンにまつわる報道が量的に他社のものを圧倒している。

 ただ、フォックスコンの報道と言えば長らく台湾メディアの独壇場だったのだが、シャープ買収や、米Microsoft社からNokiaブランドの携帯電話事業を買収したことで関心が世界に拡大。最近は日本発の報道や、欧米メディアの記事を、台湾メディアが外電として伝えることが増え始めている。そして、こうした台湾以外の国・地域で発信された報道が、他国の言語から台湾の言語である中国語に翻訳されて台湾メディアに掲載される過程で、本来の内容が微妙にズレて伝わってしまうというケースが生じることもある。

 例えば2016年8月上旬、いくつかの台湾メディアが海外メディア発の情報として、「フォックスコンのある幹部が、ロボット導入など生産自動化の効果で、同社の主力工場である中国河南省鄭州、広東省深セン、江蘇省昆山の工場を閉めることもあり得ると発言した」という内容の記事を掲載しているのを見つけた。

 フォックスコンの鄭州工場と言えば、iPhone製造の主力工場であり、生産ピーク時には20万~30万人の従業員が在籍し、1日当たり50万台強を製造することが知られている巨大工場。深セン工場は鄭州工場ができるまでは同社最大規模の工場だったところで、現在でも10万人単位が働いていると言われる。それが、仮に自動化やロボット導入で生産効率が飛躍的に向上したとしても、これら巨大工場が丸々必要なくなるほどになってしまうのだろうか、人手の代わりにロボットを配置したとしてもそれなりのスペースは必要だろうにと、いささか疑問に思った。そこで、海外メディア発とあるがそもそものネタ元はどこなのかと調べてみると、香港の英字紙『サウスチャイナモーニングポスト』が、フォックスコンで生産自動化事業に従事する戴家鵬ゼネラルマネジャーを取材した記事であることが分かった。

フォックスコン鄭州工場の採用センター
フォックスコン鄭州工場の採用センター
ロボット導入による生産自動化の影響で、ここに採用希望者による長蛇の列ができることもなくなるのだろうか(2015年2月撮影)。
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