ソフトバンクグループが2016年7月18日に公表した半導体大手、英ARM Holdings(ARM)社の買収は、EMS(電子機器受託製造サービス)や半導体関連企業が集積する台湾や中国でも高い関心を集めた。とりわけ有力企業の「爆買い」で陣容を巨大化する中国半導体業界の動きに神経をとがらせている台湾では、ソフトバンクがARM社の買収完了後に、株の一部を中国に売却するのではないかとの観測が浮上したようだ。

 これを伝えているのは台湾紙『経済日報』。2016年7月19日付で、ARM社については中国の半導体産業の育成を支援する政府系ファンドである国家集成電路(集積回路)産業投資基金が買収するとの観測が持ち上がっていたと指摘。その上で、電子商取引大手Alibaba社(阿里巴巴)の大株主であり中国と関係の深いソフトバンクが、ARM社の株を中国に売れば、台湾の半導体産業にとっては脅威になるとして、市場や業界に警戒感が広がっていると報じた。

 ソフトバンクはARM社の買収公表からさかのぼること1カ月半前の同年6月1日、保有するAlibaba社株式の一部売却を発表した。ソフトバンクがAlibaba社の株を売るのは、2000年に初めて投資して以来初めてのことで、かつ、株売却で調達する資金が100億米ドル(約1兆600億円)と巨額。それだけに、売却の目的や資金の用途について様々な憶測が飛び交ったが、240億ポンド(約3.3兆円)というARM社の買収額を聞いて、「このための資金だったのか」と得心する向きが多かったようだ。加えて台湾では、売却後もなおAlibaba社株28%を保有するなど中国と関係の深いソフトバンクの傘下に入るARM社が万一、中国に売却されるようなことになれば、中国の半導体産業の競争力強化に寄与する半面、台湾にとっては大きな打撃になるとの見方がある。