新しいアプリケーションを目指す場合はもっと大変で、まさに違った土俵に登る必要があります。例えば医療向けのLSIを開発するのであれば、実験を行うにしても個人情報保護やセキュリティー、倫理面など様々な問題を克服しなければいけません。

 ムーアの法則の時代では直線を速く走る能力が必要だったのに対し、ポスト・ムーアの時代では、障害物競走、あるいは道なき荒野を自ら切り拓き、サバイブする能力が必要になった、と言えるかもしれません。そのための重要なツールがMOTではないでしょうか。

 このようにムーアの法則の終焉は、私たち電気・電子分野のエンジニアや企業にとって、ゲームのルールが抜本的に変わることを意味していると感じます。こうした変化をプラスに考えると、巨額な投資が必要な大規模な組織戦から、比較的小規模な投資の個人戦、エンジニアの個性や能力がそのまま結果につながりやすくなった、と言えるかもしれません。集団で研究開発することが苦手だったり、大組織の中に埋もれていた個性的なエンジニアや研究者にとっては活躍するチャンスが増えるかもしれません。

 MOTを軸にした分野の転換が必要なのは、まさに今であると思います。今年は「10年後、生き残る理系の条件」(関連URL )という本を出したこともあり、企業の若手エンジニア向けの研修などで、MOTの重要性を紹介するような講演のご依頼を頂きます。

 MOTに関心を持って下さるのは有難いですが、現在の企業の幹部・管理職の方からはどこか「MOTは自分には関係ない、若手が身に付けるべきスキル」というニュアンスを感じます。世代交代するまで何十年も待っていて、会社は大丈夫なのだろうか、と他人事ながら少々心配になります。変わらなければいけないのはまさに今この瞬間、そして誰しもが変わらなければいけないのではないでしょうか。2017年が私自身にとっても、みなさまにとっても、変化するきっかけを見つけられる年になればと思っています。