ムーアの法則が続いていた時には、トランジスタを小さく作る、高速化することでCPUを高速化・高集積化したり、メモリーを大容量化するなど、共通のゴールに向かって世界中の技術者が凌ぎを削っていました。そうした技術開発もまだ残ってはいますが、プレーヤーの数は減ってしまいました。例えばロジックLSIの微細化を追求できるのは、米国のIntel、台湾のTSMC、そして米GLOBALFOUNDRIES社や韓国Samsung Electronics社などの米IBM連合だけです。プレーヤーが減れば論文の数も減っていきます。

 学会も一種のビジネスでもあるので、論文数が減ってはジリ貧になります。おそらくIEDMも積極的に微細化以外の論文を採択する方針なのでしょう。多種多様なアプリケーションに向けた論文が発表されるようになり、エンジニア各人がそれぞれ、自分の決めたゴールに向かって走り出しているように感じます。実際に学会で会う知り合いの研究者の多くが研究分野を変えています。分野を変えなければ、研究費を確保することが難しくなっているのでしょうね。

 世界の半導体産業における競争の中で凋落した日本に居ると、研究者が半導体デバイスから研究分野を変えるのは、(残念ながら)当たり前です。そうでなく、半導体産業の競争に勝った米国や台湾などでも、ムーアの法則が終焉することで、ゲームのルールが変わりつつあるのではないでしょうか。その結果、エンジニアや研究者も分野を変えざるを得なくなった。

 例えば、元々CPUなどロジックLSIの専門家だった研究者がメモリーの研究に移る。そして新たに身に付けたメモリーの技術を活用。メモリスタなどのメモリーデバイスを使った脳型LSIの研究に移るといった例が非常に多いのです。さすがに全く新しい分野に何の武器も持たずに参入するのは無謀なので、かつての専門を活かしながら知恵を絞って新分野に参入する。

 ムーアの法則が続き、将来の技術のロードマップを描けていた頃は、研究開発も縦割りに細分化され、その道のスペシャリストとして専門分野を極めることがエンジニア・研究者にとって重要でした。ところが今では、自分が持っているコアとなる強い技術を活かせるゴールを探し、目標を定める。そして、ゴールに到達するために、ハードのみならずソフトの開発も行ったり様々な分野の専門家を巻き込み、プロジェクトを運営する能力が重要になっています。

 ロードマップができていない新しい分野では、単に画期的なデバイス・ハードを作っただけでは、最終的なユーザーに使ってもらえません。新しいハードを使いこなすソフトやインターフェースの規格を自ら作ったり、ソフトの研究者を巻き込むことが必要になります。