全体としては苦境が続く電機業界ですが、もちろん、引き続き高い収益を上げ続けている企業もあります。ただ、もはや誰もが儲けられるような右肩上がりの時代は二度と来ないと考えた方が良いでしょう。今好調な自動車産業にしても、将来は自動運転を目指して、GoogleやAppleなどIT業界との競争(と連携)が予想されます。そうなると、今のような競争優位を保ち続けることができるのか。パソコンやテレビのように、コモディティ化されないのか。

 むしろこれからは、製品も業界も急速に変化し続けることが当たり前、いわば障害物競走を走り続ける覚悟が必要ではないでしょうか。そして、変化し続ける環境に適応できる力をつけることが大切なのではないか。

 大企業にいるエンジニアは、ともするとある特定の技術を深堀りし続け、いわば「生き字引」のように専門を極めることが求められがちです。そうるすと、技術の分野としても、仕事をする環境・部署としてもずっと同じところに留まることになります。

 それで定年まで勤め上げられれば何の問題もありませんが、変化の多い時代では、途中で仕事の内容を変えたり、リストラされて自分で仕事を探さざるを得なくなる。そうすると、同じ職場で一つの分野を極めてきた「強み」が、新しい環境に適応する上では、「弱み」にさえなりかねないのです。

 仕事の内容も職場も変わらざるを得ない場合、早い話が転職せざるを得ない場合、ベンチャー企業などを渡り歩いた方の方が、大企業で同じ職場に居続けた方よりも、広く世界を知っていることを強みにして転職に成功されているようにも感じます。

 これは企業だけではありません。大学でもいわゆるポスドク問題として、博士取得者の雇用の問題が生命科学の分野などで顕在化しています。大学のポストが限られている、国家財政が厳しいことにより、むしろ大学のポストは減る方向ですので、企業が博士を採用することが期待されます。

 一方、企業からすると博士はプライドが高いので使いにくい、などと博士採用に慎重な意見も聞きます。これなども、博士自体がどうかというよりも、大学の研究室という同じ環境・同じ分野に長く居過ぎると、他の環境(企業)に適応しづらくなってしまうのではないでしょうか。実際、情報分野、電気・電子分野のように、普段から企業と連携している分野では、博士課程卒業者あるいはポスドクの方が企業に就職・転職することは珍しくありません。