しかし、時代は変わりました。かつての銀行、最近のメーカーの栄枯盛衰を見るまでもなく、事業が存続できる寿命は短くなる一方です。磐石に見えた大企業が潰れることもありますし、企業自体は生き残っても、事業や人がリストラされることは珍しくありません。

 自分の身は自分で守るしかない。もしもの場合には転職できるように、常に労働市場で自分がどのように評価されているか、意識する必要があるのです。新卒以外の人を採用する場合、面接はするにしろ、その人の人となり、どのように生きて来たかをできるだけ客観的な情報をもとに採用する側は判断しようとします。例えば具体的な製品の開発経験があります、プログラミングのスキルがあります、などと書かれていても、実際にどれだけ仕事ができるか判断は難しい。その点、論文や特許などの文献・創作物がある人は有利です。また、(採用する側が)信頼できると思える人がサポートのコメントをしてくれることも重要でしょう。

 このような職歴や推薦に加えて、学歴や大学の成績からも色々なことがわかります。例えば、成績判定がさして厳しくない大学で特別な理由もなしに留年を繰り返した人が居たとすると、ひょっとしたら自律的に動けない人、周囲の環境がゆるければ流されてしまう人ではないか。

 あるいはもし成績証明書の成績を見ることができる場合は、年次が上がっていき、専門科目が多くなるにつれて成績が良くなっている人が居るとしたら、「この人は努力して段々と成績を上げてきたのだな」とか、「幅広くできるオールマイティではないけど、この専門分野は強い人だな」などと推測できます。

 仕事をしながら大学院に通って学位を取られた方は、仕事をする中で何らかの問題意識があったり、新しいスキルを学びたいと思って努力されたわけですから、その点を面接で聞いてみたいと思うわけです。最近はエンジニアの方が会社の時間外に(「技術」)経営を学んでMBA、MOTの学位を取られることも珍しくなくなりました。

 つまり、業界で誰もが認める突出したエンジニアでもない限り、自分がやってきたこと、考えてきたことをできるだけ客観的に評価できる方法で足跡を残し続けることが、いざとなった時には大切なのです。学歴はそういった手段の一つになるのではでしょうか。

 もちろん、仕事を始めてそれなりの年数が経てば、人物評価でより重要になるのは職歴、仕事の実績です。一方、学歴というのは社会に出てからも、自分の努力次第である程度は獲得できるものでもあります。すでに社会に出た人にとっても、学ぶことは学校を卒業したら終わりではないことを、覚えていて欲しいと思います。