Volkswagenの排ガス試験不正では、ディーゼル車に搭載されたプログラムが排ガス試験を検知すると、試験の時だけ有害物質が削減されるように浄化装置が動作する(その代わりに燃費は悪化する)、というものでした。

 私は車の専門家ではありませんが、性能(このケースでは有害物質の削減)とコスト(燃費)がトレードオフの関係にあるのは、ITやエレクトロニクスの技術開発に携わっている技術者ならば日々頭を悩ます問題です。

 例えばCPUでは、動作電圧を上げてクロック周波数を増加させるオーバークロックを行うと、処理性能は向上する反面、電力が増加したり、電力増加に伴う発熱が問題になります。性能とコストを同じ条件で比較しないと正当な評価にならないのは技術者にとっては当たり前のこと。Volkswagenの件は「きっとわかっていながら、やってしまったのだろうな」と感じました。

 どうしてこのような不正が長年にわたって行われたのか、組織のあり方やガバナンスの問題がこれから追及されるでしょう。さらに、今回の不正はプログラミングによって検査をごまかしたわけで、皮肉なことに、車ではいかにIT化が進んでいるかを、一般の人にもわかりやすい形で見せつけたような気がします。

 専門家であれば常識ですが、車はIT化が進み、エンジンや車体を制御する100個以上のECU(電子制御ユニット)や衝突回避などのために車の周囲の環境をモニタする数多くのセンサが車には搭載されています。車の開発においては、こうした半導体のハードウエアのみならず、ソフトウエアの開発が大きな比重を占めています。

 最近もてはやされているIoT(Internet of Things)の代表的な例として、車のIT化をさらに一層推し進める自動運転車があります。自動運転車の開発を進めるGoogleなどが主張する自動運転の利点は、体が不自由だったり年配の方でも容易に移動が可能になる、車を所有する必要がなくなり(共有するようになり)膨大な駐車場のスペースが削減できる、人為的な運転ミスをなくすことで安全性を高められる、などがあります。