特定分野の生き字引となるのは、終身雇用・年功序列で同じ企業に留まるのであれば、企業にとってもエンジニア個人にとっても合理的なキャリアです。しかし、終身雇用が崩れた時には、強みが弱みに逆転してしまう。生き字引が、つぶしが利かない、になってしまいました。

 この人事制度の矛盾についてはエンジニアだけでなく、人事の方々にとっても頭が痛い問題だったのです。大規模なリストラを行った時、リストラされるエンジニアだけでなく、次の職業を斡旋しようとする人事部の方々もとてもつらい思いをしました。自社で雇用し続けられないのであれば、エンジニアにできるだけ良い条件・環境の第二の人生を見つけてあげたかったが、それができなかった。

 リストラでは人事部のようなスタッフ部門、間接部門も人員削減が行われますが、かえってそのような人達の方が、つぶしがきいて、次の仕事を見つけることができた。

 電機メーカーにはリストラを経てV字回復している企業もありますが、事業転換時にエンジニアにうまく仕事を転換させてあげられなかったことが、今でも人事部の大きな反省になっているようです。トラウマ、と言っても良いでしょう。

 テレビ、白物家電やパソコン、携帯電話機などコンシューマー機器から縮小・撤退し、社会インフラや産業機器などに事業を転換させることで収益上は復活したメーカーでも、いつまた苦境が訪れるかわからない。おそらく、事業の栄枯盛衰は避けることができないのだから、事業転換とそれに伴う人のリストラは今後も避けられないでしょう。

 その時に、エンジニアが社内外で次の仕事を見つけていけるようにするには、どうすれば良いのか。リストラする時に考え始めたのでは、手遅れです。今までのように、技術者は職人のように専門技術だけを極めるのでは、いざとなった時に、つぶしのきかないままではないか。

 つまり、永続する事業、終身雇用を前提にするのではなく、事業転換、転職を前提とすれば、ひとつの分野を深堀りするよりも、多様な経験を積むようなキャリアプランにした方が良いのではないか。

 企業の人事制度も大きな転換点を迎えているのです。報酬についても同様です。今までのように企業、事業が(定年まで)永続するという前提で少しずつ上昇するように設計されていた賃金カーブはもはや幻想。事業は変わるし、転職も当然のようにしなければいけない、ということを前提とするならば、「稼げる時にしっかり稼ぐ」という報酬にしなければいけないでしょう。