電力小売り全面自由化が始まり、都市ガスや石油元売り、通信など異業種から電力に参入する企業の電気料金メニューも、概ね出そろいつつある。ガスやガソリンと電気とのセットやポイントサービスなど、これまで見られなかった料金プランも数多い。その多くは、日経BPクリーンテック研究所が2015年12月に発行した「世界電力小売りビジネス総覧」で分類したビジネスモデルの類型に該当する。

 その一方、金融に技術を融合させた「フィンテック」をエネルギー事業に取り入れる試みは、日本ではまだほとんど見られない。エネルギーにおける「金融商品戦略」では、電力自由化で先行する欧州、なかでも国際金融センターとして名高い「シティ(City of London)」を抱える英国に一日の長がある。

「金融商品戦略」は欧米でも開発途上

 電気やガスといったエネルギーはコモディティであり、それ自体では他社との差異化が難しい。従って、競合他社との競争では、低料金や魅力的なサービス/付加価値の提供という差異化が求められる。この付加価値向上の手段として近年注目されているのが、金融商品に見られる手法をエネルギー供給サービスにも応用する「金融商品戦略」である(図1)。

図1 金融商品戦略の概要
図1 金融商品戦略の概要
(作成:日経BPクリーンテック研究所)

 エネルギー自由化の進んだ欧米諸国では、電力とガスのセット販売(デュアルフューエル)や家庭用エネルギー管理システム(HEMS)機器との組み合わせは一般的となっているが、金融商品戦略はまだ開発途上にある。その理由は、金融商品自体に複雑な概念のものが多く、単純にエネルギー料金プランに適用すると消費者を混乱させる恐れが多分にあるためだ。

 英国では、エネルギー市場を監視するOfgem(Office of Gas and Electricity Markets:ガス・電力規制局)が事業者の料金プランを簡素化するように規制した経緯があり、金融商品戦略を進めにくい状況がある。それでも、利息ボーナスを差異化のポイントとして打ち出している英OVO Energyのように、ユーザーに金融商品としてのメリットを訴求する試みも出てきている。

創業者は金融業界出身

 英国の電力小売市場では、ブリティッシュガス(BG)やE.ON UKなど大手6社、いわゆる「ビッグ6」が90%のシェアを持つ。その一角に食い込む新規事業者のOVO Energyの創業者社長であるステフェン・フィッツパトリック氏は、ロンドンで投資銀行業務に従事した経験を持つ。

 OVO Energyは、電気・ガス料金の支払いが滞りがちな低所得者層の利用が多い前払い型("Pay-as-you-go: PAYG”)の料金プランを用意している。このプランではユーザーの前払いで先に得た資金を使って燃料や電力を安価に調達して利益を作り、口座残高がプラスのユーザーに利益の3%をボーナスとして還元する。一般には割高で不便とされる前払い料金プランで、ユーザーに新しいメリットを提供しているのだ。